第2章 悪魔の王
蝋燭で照らされた薄暗い廊下を、案内されて歩く。前を行く召し使いの人にもアダマンド様程では無いにしろ角が生えていた。
「こちらです」
案内された木の扉には、丁寧に模様が彫られていて一目で高価なものであると解った。ここがアダマンド様のお部屋なのだろう。
「あの、有り難うございました」
召し使いの人にお礼を言ったのだけれど、逆に冷たく睨まれてしまった。そして何も答えずに召し使いの人は去っていった。私は何か気にさわる事をしてしまっただろうか。思い返してみたけれど、思い当たる事が無い。もしかしたら、知らない内にマナー違反をしてしまったのかもしれない。
もっとこの世界の事を勉強しなくちゃいけないと反省した。
気を取り直して扉を控え目に叩く。
「入れ」
扉越しにアダマンド様の声が聞こえて私は重そうな扉を押した。隙間から体を中に滑り込ませて、扉を後ろ手で閉じる。
「し、失礼しますアダマンド様。です。アダマンド様のお、お召しに、よ、り…」
あぁ、お婆さんから教えて貰っていたはずの口上なのに言葉が上手く口から出てこない。緊張で喉が渇いてしまって舌が張り付いてしまっている。
薄暗い部屋の中、ゆったりとしたガウンに身を包み豪華な椅子にゆったりと腰掛けてワイングラスを手にしたアダマンド様の姿はとても色っぽくて妖艶だ。
その姿を目にして更に緊張が高まってしまい、手と足までもが小さく震えだす。
「お召しに、より…っ」
先がどうしても思い出せない。どうして良いか解らなくなって涙が出そうになった。唇を噛み締めて零れそうになった涙を堪える。何とか息を吐いて、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。
でも焦れば焦るほどに混乱してしまって、とうとう言葉すら出なくなってしまった。
「っ、ッ…」
唇のみがはくはくと喘ぐように動く。私のこんなみっともない姿を見てアダマンド様はどう思っただろうか。せっかくお爺さんとお婆さんが私に色々教えてくれたのに、それを活かすことが出来ていない。ごめんなさいお爺さんお婆さん、私はアダマンド様に呆れられてしまったかもしれません。
とうとう私の目から涙が零れた。
その時、フワリと体が浮いたかと思うと私はアダマンド様に抱き上げられていた。