第4章 虫の王
虫の国のキリヤ様。
黒のメッシュの入った緑の髪。額からは触覚が生えていて、その触覚で人間には分からない色んな事を感知出来る。肌は薄緑で顔は人間に近い。けれど釣り上がり気味の黄色い瞳に白目は無く、唇を押し上げるほどの立派な牙はやはり人間とは違う。
そして、一番人間と違う所は体。硬質な手触りに節のある手足、形は人間だけれどお腹は虫のそれなのだとお爺さんは言っていた。キリヤ様には透明でピンと張った綺麗な羽根がある。
虫人は機動力が有って、とても頭が良いのだと教えてもらった。
「キリヤ様、そんな事を言うと可哀想ですわ」
「でもさ、臭うでしょ?お前はどう思う?」
アゲハ蝶の様な見事な羽根を持った女の虫人が笑いながら私を可哀想だと言った。そんな女性の髪を優しく撫でながら、キリヤ様が近くに居た男の虫人に問いかける。
すると、男性は少し顔を突き出すと匂いを嗅ぐような仕草をして…
「ははっ、臭いですなぁ」
「ええ、臭いますな」
周囲の人達も同意する様に声を上げて頷いた。また笑われる。私は何が起こっているのか分からなくて戸惑った。
「あ、あの、えっと…私、臭い、ですか?」
やっと自分の事を言われているのだと頭が回り出して理解した。問いかけるとキリヤ様が呆れた様な表情を浮かべた。
「でも、お風呂に入ってオルガに洗って貰いましたし…」
そんなに臭うのだろうかと心配になって服を掴んでまたクンクンと嗅いでみる。でもやっぱり臭いはしなかった。虫人にしか分からない何かが有るのかもしれない。
「臭いんだよ。ここに人間はお前しか居ないし、お前が臭いのに決まってるでしょ…あぁでも…」
良い事を思い付いたとばかりにキリヤ様が真っ赤な瞳を愉快そうに細めると口の端を上げて笑った。
「服を脱いでよ。本当にお前が臭いのかどうか確かめるからさ?」
「っ?!」
キリヤ様の言葉に皆がニヤニヤと私を可笑しそうに笑って見ている。
「み、皆さんの前で、脱ぐの…ですか?」
「当たり前でしょ?早く脱ぎなよ…脱げ!」
僕の命令が聞けないの、と続けると周りの人達も「早く脱ぎなさいよ」「王の命令だぞ!」と囃し立てる。私は唇を噛んで、服に手をかけた。
キリヤ様の命令なのなら、私は逆らう事は出来ない。
私は沢山の好奇の目を向けられながら、震える手を必死に動かして腰の帯を引っ張った。