第4章 虫の王
お風呂から上がると、着ていた服が無くなり白くて薄い布で出来た服が用意されていた。
そしてアダマンド様から頂いたネックレスとラウルフ様から頂いた髪留めが無くなっていた。慌てて見渡しても見当たらない。
「オルガ、私のペンダントと髪留めは何処?」
「あぁ、あれ等は捨てさせて頂きます」
「駄目!捨てないで!」
大事なものなの、とオルガにすがり付くとオルガが暫くの沈黙の後大きく吐息を付いた。
「分かりました。この国に居る間は私がお預かりしておきます。一週間後にお返し致します」
私はその言葉に安堵の息をついた。
「有難う、オルガ」
「…いえ」
オルガが素っ気なく答えながら白い布を器用に私の体へと巻き付けていく。それは胸を隠し、金の帯で留められてスカートになった。下着は紐で括るタイプのもので、何だか心許無い。
「では、キリヤ様の元へご案内します」
オルガの後を付いていく。絨毯の敷かれた廊下は石造りと言うよりは、石そのものを削って作った様な。まるで洞窟の様な雰囲気の建物だった。
不思議な建物が物珍しくて見回しながら歩いた。
「キリヤ様、様をお連れしました」
余所見をしていた私はオルガにぶつかりそうになって慌てて足を止めた。目を先へと向けると、大きな扉があってオルガが中へと声をかける。
─ウフフ…
─ですから、─よ…
扉の向こうからは、何やら笑い声が聞こえて暫くしてから、中から返事が聞こえた。
──良いよ、入りなよ
「失礼致します」
オルガが応えて扉を開けた。私は扉を支えるオルガの視線に促されるままに中へと足を進めた。緊張して足が震えてしまう。
「失礼します。です。宜しくおねが…」
挨拶をしかけて言葉が止まってしまった。目の前には大きなソファに腰掛けたキリヤ様が居た。そしてその両脇にはとても綺麗な蝶の羽根を持つスタイルの良い虫人の女性。
そしてキリヤ様を囲んで数人の男性と女性が居た。皆、お酒やら食事を楽しんでいて、こちらを目にしては何やらヒソヒソと話している。
パタンと後ろで扉が閉じた。
「何これ、変な臭い!……ん?あぁ、臭いと思ったら人間か」
態とらしくキリヤ様が声を上げた。すると部屋の全員がクスクスと笑い出す。
蔑んだような視線を向けられて、私は訳が分からず呆然と立ち尽くしていた。