第4章 虫の王
私は泣いて変な顔になっていないか心配になって目元を擦った。獣の国で用意してくれた立派な服とサナが綺麗に整えたくれた髪を確認する。
そして気合を入れ直して一際明るい転移装置の出口へと進んだ。
転移装置から出ると、てっきり獣の国の時のように沢山の人が居るものだと思っていたのだけれど、そこに居たのは一人の少年だけだった。
思わず周囲を見渡したけれど、やっぱりその男の子だけ。男の子と言っても顔は幼いながらも背は私より少し高い。
一見、顔は人間の様に見えるけど目が違う。黒一色の瞳。そして男の子の腕は細長く節が有り、背中には茶色や黒の模様が入った羽根がついていた。それはまるで蛾の羽根のようだった。触覚を揺らしながら、その男の子は私を目にすると深々と頭を下げた。
「様、お待ちしておりました」
私は慌てて頭を下げ返した。
「お、お世話になります」
蛾の男の子が表情の無い瞳で私をじっと見詰めてくる。黒一色の瞳は感情が読み取りにくい。
「私はオルガと申します。滞在中の様のお世話をさせて頂きます」
「は、はい!宜しくお願いしますオルガさん」
「さんは、付けないで下さい。敬語も不要です」
そう冷たくて言われて、すいません、と謝った。こちらへ、と私を促してさっさと歩き出すオルガの背中を私は追いかけた。
「あ、あの、キリヤ様は…」
「キリヤ様は別室でお待ちです。仕度をしてそちらに向かいます」
「は、はい」
一度お見かけした虫の国の王様であるキリヤ様。初対面の時のちょっと怖いイメージがあったから緊張してしまう。
私は湯殿に移動した。そこでオルガが私の服を脱がそうとしたので驚いて逃げた。
「逃げないで下さい。キリヤ様のご命令です」
「で、でも、お風呂くらいなら一人で入れます」
オルガが少し視線を落としてから言いにくそうに口を開いた。
「人間は……人間は臭いのでしっかりと洗うようにと言われておりますので」
「っ!」
私は言われた内容に顔が赤くなった。私って臭いの?!つい服を掴んで鼻に押し当てた。でも私には特に匂いを感じる事は出来なかった。そう言えば、初めて会った時もキリヤ様は私を臭いと言ってらした。
…そういう言いつけなら抵抗できない。
私は体を固くしながらもオルガが私の体を洗う恥ずかしさに耐えたのだった。