第3章 獣の王
「どうだ?子供は出来たか?」
朝起きた時から頻りに私のお腹を撫でて来るラウルフ様。孕んだか?子供は出来たか?と何度も何度も聞かれて顔を真っ赤にしていると、私の身支度をしていたサナがラウルフ様を叱り付けた。
「ラウルフ様!子供が出来ているかどうかは、そんなに直ぐには分からないと何度も言ってるじゃ無いですか!」
「いや、しかしだな…」
今日で獣の国とはさよならだ。ラウルフ様は朝から私の側を離れず、着替えをするから部屋を出て下さいとサナに言われても扉の外でウロウロしていた。
それを見たシーザーさんにお前は何時から熊になったのだとつっこまれていた。
「いや、やっぱり、もう一回俺のを注いでおいた方が…」
「ラウルフ、いい加減にしろ」
シーザーさんに呆れた様に言われてラウルフ様が不満そうな表情を浮かべた。
「気持ちは分かるが、もう時間が無い」
そうシーザーさんに言われて、ラウルフ様とのさよならの時間が近付いているのを理解した。
ラウルフ様は私の傍に来ると、片膝を付いて私と目線を合わせた。そしてポケットから取り出したものを私の前へと差し出すと、手を開いて見せてくれた。
それはラウルフ様と城下に遊びに出かけた時に私が気になっていた手作りの粘土で作られた小さくて白い花の髪飾りだった。驚いてラウルフ様を見ると、耳を下げていた。
「悪いな、が欲しそうなものと思うとこれしか思い浮かばなかった」
「ラウルフ様…」
俺はもっと宝石の付いたものを…などと小さくぼやいていたけれど、ラウルフ様は私の欲しいもの、知っててくれたんだ。私は嬉しくなって受け取った髪飾りを抱き締めた。
「私、これが欲しかったんです。ラウルフ様、有難うございます。とっても嬉しいです」
ラウルフ様がホッとしたように笑みを浮かべた。そんなラウルフ様に私は抱きついた。ラウルフ様は少し驚いたみたいだけど、私を抱き返すと鼻の頭を私の髪に擦り付けた。
「体に気をつけろよ?」
「はい」
「ちゃんと飯も食えよ?」
「はい」
転移装置が輝き出した。私はラウルフ様にしがみつく腕に力を込めた。でも時間は待ってくれず。名残惜しいのだけれど、迎の人に促されてラウルフ様から離れると私は転移装置に足をかけた。