第3章 獣の王
「ったく、シーザーの奴。今日がと過す最後の夜だってのによ」
お互いに体を洗いっこして、二人で湯船に入った。風呂の縁に腕を掛けて凭れるラウルフ様の足の合間に座り私はラウルフ様に背中をあずけていた。
「でも、シーザーさんが今日のラウルフ様は凄かったって言ってました」
何時もこうなら良いのに、とぼやくシーザーさんを尻目に仕事から解放されて戻って来たラウルフ様は私を抱き締めてブンブンと尻尾を振っていた。
「お前に早く会いたかったんだよ」
照れた様にそっぽを向きながら口にしたラウルフ様の頬に私は口付けた。その感触にこちらを向いたラウルフ様がお返しとばかりに頬を舐めて来る。
「ラウルフ様、この一週間戸惑う事も有りましたけど、凄く楽しかったです。この国の人は皆さん優しくて…サナにもシーザーさんにも…本当に良くして頂きました」
この国は優しくて暖かい。まるでラウルフ様みたいです、と口にするとラウルフ様が嬉しそうに笑った。
「が気に入ったのなら良い」
ラウルフ様が私の腰に手を回すと、体を反転させて足に私を座らせた。向かい合う様な体勢になりじっと私の瞳を見詰めてくる。
「…お前が俺の、俺だけのものなら良いのにな」
ラウルフ様が切なげに顔を歪めて私を抱き締めた。その強さに私は戸惑いつつも背中に手を回して抱き返す。
「いっそ、他の国を滅ぼしてお前を俺だけのもんにするか」
聞こえた言葉に驚いてラウルフ様の顔を見た。するとラウルフ様が耳を垂れて苦笑いを浮かべた。
「安心しろ、冗談だ」
濡れた髪を梳かれる。胸元に頭を預けると、獣特有の人よりも速い鼓動の音が聴こえて来た。
「でも、覚えておけよ。俺はそれだけお前を気に入ってる。お前に何かあったら、他の王でも許さねぇ」
グルルと低い唸り声が聞こえた。
「お前に何か有れば、そいつを爪で切り裂いて、生きたままに食いちぎって内臓を引きずり出してやる」
そう言いきったラウルフ様の瞳は、何時かベッドの上で見た獲物を狙う本能に輝いた目をしていた。私はその瞳にゾクリと恐怖を覚えると共に、それだけの想いを寄せられる事への幸せに内心喜んでいた。
その後は何時の間にか湯のかけ合いになっており、遊び楽しんだ私達はその日二人して裸で抱き合って眠ったのだった。