第3章 獣の王
「様、様あぁ!」
サナが泣きながら私の名前を呼ぶ。その隣でシーザーさんが手を振っていた。
「!」
ラウルフ様が私を追いかけるように一歩大きく踏み出した。でも、ラウルフ様は奥歯を噛み締めて拳を握り、その場に留まった。
そして力無く肩を落としたラウルフ様の耳は下がり、尻尾も垂れていた。寂しそうなラウルフ様。あぁ、今すぐにラウルフ様を抱き締めたい。そんな気持ちに胸が痛くなる。
それでも私は虫の国の使いの人に促されて足を止める事が出来ない。
「ラウルフ様、また来ます!サナ、シーザーさん、皆さん!有難うございました!」
私はラウルフ様から貰った髪飾りをつけて笑って見せた。それを見たラウルフ様が僅かに笑みを浮かべる。
そしてラウルフ様は大きく息を吸い込むと…
ウオオオーーン────
低くて良く響くラウルフ様の遠吠え。
それに呼応する様に、シーザーさんも吠えた。
オオオン──
そこに居た護衛の人も偉い人も、ラウルフ様の声に合わせて吠える。サナも泣きながら声を上げていた。
それが獣の国の人達の私への見送りだと理解して、涙がこみ上げた。
大合唱の嵐の中、ラウルフ様を見るとラウルフ様が私をじっと見詰めていた。何処か寂しそうな笑顔。
「ラウルフ様、また来ますから!今度はもっと色々……」
最後まで言う前に私の体が光の中へと消えた。
もっともっと、ラウルフ様と遊んで話して色々楽しい事をしたかった。
私は今度ラウルフ様とお会いした時は、と心に決めたのだった。