第3章 獣の王
結局、仕事が余り進まずシーザーさんに二人して怒られてしまった。ラウルフ様が落ち着いたのは夕方で、私から抜け出たラウルフ様は仕事のノルマを終えるまで私から離すとシーザーさんに連行されて行った。
サナが私の体を拭ってくれる。恥ずかしかったけれど、疲れきっていたので任せる事にした。
体を拭いながら、サナが小さく笑った。私は不思議に思ってサナを見ると視線に気付いたサナが、すいません、と笑いながら謝った。
「だって、さっきのラウルフ様が凄く子供っぽくて…一緒にお風呂に入るから絶対に待ってろ、ですって」
ウフフ、と笑ったサナの兎耳がピコピコと揺れていた。嬉しそうなサナは、次いで私の首元を拭いながら涙ぐんだ。
「本当に、有難うございます。あんなに嬉しそうなラウルフ様は初めてです。様が来て下さって良かった…」
サナの言葉にラウルフ様の姿を思い出した。すると私の心が暖かくなって来る。
「私もお礼を言わなくちゃいけません。この国の皆さんに良くしてもらって…それにラウルフ様のお陰で、私、凄く嬉しかったんです」
サナが私の言葉に不思議そうに首を傾げた。
「私、小さな頃から皆様の花嫁になるんだって言われてて。それは当然の事で、当たり前で…見た事も会った事も無い皆さんの花嫁になれるのか心配だったんです。でも…ラウルフ様は私に嫁になってくれって」
何と言えば良いのか分からず、上手く伝えられなかったのだけれどサナは理解して頷いてくれた。
私はラウルフ様に嫁になってくれと言われた時、自分の存在が認められた様なそんな気持ちになったのだ。それが凄く嬉しかった。
「ラウルフ様は素敵な方ですね」
そう言うと、サナが胸を張って大きく頷いた。
「そうでしょう!ラウルフ様は凄いんです!とーっても強いですし皆からも好かれてて…まぁ、様を子供と思い込むようなオチャメな所もあるんですがー」
そう口にしたサナと目を合わせて笑ってしまった。
「さあさあ、昨日から余りご飯を食べられていませんでしたでしょう?ちゃんと食べて下さいな」
今夜の食事は魚の煮付けに炊いた大根を柚子と白味噌で味付けしたもの。野菜たっぷりのお味噌汁にお粥と、昨日のラウルフ様との交尾から何も食べていなかった私の胃に優しい内容となっていた。
私は気遣いの篭った食事を有り難く頂いたのだった。