第2章 悪魔の王
椅子に座ると、後ろをついてきていた召し使いの人がお茶を入れてくれた。良い香りがする紅茶。
そう言えば、家を出てから何も食べていなかったからお腹が空いていた。本当にこれを私が食べても良いのだろうか?恐る恐るアダマンド様をうかがうと、彼は頬杖をついて私を優しい瞳で見ていた。
「さぁ、食べるが良い」
クッキーにマドレーヌ、ケーキも数種類有って他にもゼリーやらプリンやらそれらが艶々と輝いていた。美味しそう。
「頂きます」
私は手を合わせて頭を下げた。先ずは恐る恐るクッキーに手を伸ばす。そのまま口に運びかじるとクッキーはサクッと音を立て舌の上でほどける様にして溶けていった。凄く滑らかで美味しい!
もう一枚、もう一枚と必死でクッキーを口に運ぶ。
「、これも食べてみろ」
アダマンド様が召し使いの人にフルーツたっぷりのケーキを切り分けさせた。それを目の前に置かれて私は早速フォークを手にした。
一欠片切って口へと運ぶ。フルーツがとても甘くて瑞々しくて、下の生地のタルトのサクサク感と相まってこれもまた美味しかった。
「アダマンド様、とっても美味しいです!」
こんなに美味しいのは食べたことが無い。私の顔は自然と緩んでいた。それを見たアダマンド様が満足そうに笑って頷く。
「は痩せすぎだ。もっともっと食うが良い」
これもこれも、と彼が指示を出したものを召し使いの人が皿へと盛って私の前へと置いていく。私はそれをひたすらに口へと運んだ。
黙々と食べ続けてお腹がいっぱいになって、私は手を止めた。紅茶を喉へと流し込んで一息つく。
こんなに甘いものをお腹いっぱいになるまで食べたのは生まれて初めてだった。
「すまぬな、もう少しそなたの生活に気を配るべきであった」
アダマンド様がそんな事をポツリと口にした。
私が育ったのは田舎の小さな村だった。その中でもお爺さんとお婆さんは変わり者扱いされていて、更に私が孤児の上、外見がハーフと言うことで余計に孤立していた。殆んどが自給自足で生活に余裕なんて無かった。
アダマンド様は、二人が自分に迷惑をかけぬ様に金の催促をして来なかったのだろうと言っていた。金は十分に足りている、実験もその経過も順調だとだけ伝えていたらしい。
彼は肩をすくめて申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。