第3章 獣の王
取りあえず、ラウルフ様に会ってちゃんとお話をしなきゃいけないと思うの。でも、今のままじゃラウルフ様とお話し出来ないと困っていると、シーザーさんがニヤリと口の端を上げて笑った。
「それについては任せておけ」
黒豹のシーザーさんが、そんな笑い方をすると悪役っぽい雰囲気が有った。
で、私は今大きな大きな樹の上に居る。地面が凄く遠くて私の乗っている枝も何だか心もとなく感じてしまう。
「うぅ、こ、怖いよぉ」
ちゃんがここでラウルフに助けを求めれば飛んでくるよ、何てシーザーさんが言ってたけれど…私は視線を下へと向けて慌てて元に戻した。危ない、一瞬地面のあまりの遠さに眩暈がした。
私は慌てて幹へとしがみつく。
「た、たすけ、て…」
取りあえず、シーザーさんに言われた通りにラウルフ様を呼んでみようと声を出そうとした。でも、思った以上に怖くて声が震えてしまった。
「ラ、ラウルフ様、たすけ…」
何だか今更ながらに自分の置かれた状況が分かってきた。落ちたら死んじゃう。いや、きっと私なら死なないかもしれないけれど凄いことにはなるに違いない。必死で下を見ないように心がける。
「ラウル、さま…ラウルフ様、たす、け…」
カチカチと歯が鳴り出した。シーザーさんを呼んでやっぱり下ろして貰おうかなどとチラッと考えてしまって私は慌てて頭を振った。
駄目だ、私はちゃんとラウルフ様とお話しをしなくちゃ!
唇を噛んで固く目を閉じると深呼吸して口を開けた。
「ラ、ラウルフ様!助けて!」
私はもう一度と大きく息を吸い込んで、お城じゅうに届くようにと声を張り上げた。
「ラウルフ様助けて!ラウルフ様助けてー!」
必死で叫ぶ。だから私は自分が必死になり過ぎて、前のめりになっているのに気が付かなかった。
「ラウルフ様!ラウルフさッ?!」
ズルリと滑る感覚に慌てて幹に爪を立てた。それでもバランスを崩した私の体を支えることは叶わず、私は樹の幹へと爪痕を残したまま引力に引っ張られて下へと落ちていった。
「きゃあああ!ラウルフ様ぁ!!」
このままじゃ地面に落ちてしまう。私は目をギュッと閉じた。
フワリと抱きとめられた。そして少し揺れたかと思うと、気が付いたら私は地面に居た。
「何をやってるんだお前は!死にたいのか!」
私を抱き抱えて地面に着地した彼が吠えた。