第3章 獣の王
シーザーさんは私を連れてお城の奥へと入っていく。そして途中の渡り廊下から外に出て、お城の建物を回り込むようにして裏手へと進んだ。私はその後を着いて歩いた。
「ラウルフの奴はさ、きっとちゃんから逃げてるんだよ」
「逃げて…ですか?」
「あぁ、ちゃんが怖いんだ」
私のことが怖いと言われても何だかピンと来なくて首を傾げた。私なんて力も弱いし、王様なんかでも無い一般人だし、ラウルフ様の怖がる要素なんて無いと思うのだけれど。
「到着だ」
「わぁ、素敵ですね!」
お城の裏手のそこには、広くはないのだけれど小さな白いお花が咲いているスペースが有って近くの大きな樹からはブランコがぶら下がっていた。
「そうだろう?さぁ、ここに座って」
そう言ってブランコを示された私は、ソワソワしながら腰を下ろした。実は見た時からブランコに乗ってみたいと思ってたの。
「しっかり握ってろよ?」
「はい」
私がブランコを支える蔦をしっかりと握ったのを確認すると、シーザーさんは私の背中を優しく押した。ユラユラと動き出すブランコに自然と笑みが浮かぶ。ブランコなんて久しぶり。
「ラウルフはさ、ちゃんを食べちゃうのが怖いんだよ」
食べる、と聞いて私がラウルフ様に噛まれた夜のことを思い出した。あの時のラウルフ様は普段のラウルフ様と違って確かに恐かった。
「ラウルフにはね、婚約者が居たんだよ。それは子供の頃から決まってた。ラウルフは相手の事を嫌いじゃ無かったし、相手の方もね、問題はないと思ってたんだけど…」
シーザーさんはそこまで言って一旦言葉を止めた。どうしたのだろうと振り返ると、シーザーさんは苦し気に眉間に皺を寄せて目を伏せていた。
「相手の方にはね、他に好きな人が居たらしい。それでも二人は結婚したんだ」
私は靴の裏で地面を擦り、ブランコを止めた。
「結婚式が終わった夜だった。俺達の交尾ってさ、結構乱暴なんだよ。相手が逃げないように肩に噛み付いて押さえ込んで種付けするんだけど」
シーザーさんが大きく一度深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
「相手がね、噛まれた痛みから逃げようとしてさ…好きな奴の名前を呼びながら激しく暴れたんだ。そして頭に血がのぼったラウルフは…」
その子を食べちゃったんだよーーーー