第3章 獣の王
落ち着いたサナは少し恥ずかしそうに目元を擦ると、鼻を鳴らして笑った。
「本当に良かったです。…あの、ラウルフ様は?」
周囲を見回すサナに私は首を傾げた。
「ラウルフ様?」
「はい、傷をずっと舐めて…ずっとずっと様を抱き締めて離さなくて…」
私の負った怪我は舐めた位では治らないだろう。そう解っていても、癒すように本能で傷を舐め続けるラウルフ様の姿を思い出したのかまたサナが涙ぐんだ。でもサナは涙を堪えると頭を振って気持ちを切り替えた。
「お部屋に戻られたのかもしれませんね。私は皆に様が気付かれた事を報告して参ります。医者も呼んできますので、まだ寝てて下さいよ?」
ほらほら、と背中を押されてベッドへと戻った。開いたままだった窓を閉めて、嬉しそうにいそいそと出ていくサナを見送ってから私はもう一度窓へと視線を向けた。
ラウルフ様に会いたい。
だって、きっとあの夢の中で聞いた悲しそうな遠吠えはラウルフ様のものだと思ったから。
「いやはや、素晴らしいですな」
長い眉髭に垂れ耳の白い兎が感心したように私の傷を調べている。
「視力も異常無し。頭蓋骨までも再生しておる。何とも不思議な…」
「おじいちゃま!様はどうなんです!?大丈夫なんですか?!」
どうやら、この兎のお医者様はサナのお爺さんらしい。
「早く!早く答えて下さい!」
サナがお爺さんの肩をつかんで思いきり容赦なく揺さぶる。ガックンガックン頭が揺れてる老齢の兎さん、大丈夫かなぁ。
「サ、サナ、おじいちゃん苦しい…」
離してお願い、と訴えるお爺さんにシーザーさんが救いの手を差し伸べた。
「サナ、それくらいにしておけ。で、容態は?」
サナに渋々と解放されたお爺さんが気を取り直して私の容態を話し出した。内容は私の思った通り、何処にも異常無し。ただ、体力はかなり落ちているので休むようにとの事だった。
その言葉にシーザーさんが安堵の息をついた。
「…そうか、良かった…本当に…」
私の無事を報告すると、お医者様とシーザー様が駆け付けてくれた。でもラウルフ様の姿がない。私は扉の方を何度も確認したのだけれどやっぱり来てくれないみたい。
「取り合えず今夜は休め」
シーザーさんにそう言われて私は横になった。ラウルフ様のお顔が早く見たかった。