第3章 獣の王
ウオォォォンーー
遠吠えが聞こえる。
ウオォォォォォンーー
とても悲しくて、切ない響き。この人はきっと泣いてる。何を泣いているの?そんなに悲しまないで。
「ん…」
目が覚めた。風を感じてそちらに目を向けると、窓が開いていた。私は体を起こそうと手をつくと、そこだけがやけに温かいことに気が付いた。
先程まで誰かがいた様な、そんな感じ。
私はベッドから降りると、開いたままの窓へと近付いた。やけに視界が悪いと手で触れると頭から片目を覆うように包帯が巻かれていた。
そう言えばラウルフ様に私は噛まれたのだった。でも多分もう大丈夫。
私は包帯を解いた。解いた包帯が夜風に揺れる。外した包帯の下からは何時もの私の顔。そしてちゃんと目も見えている。傷は少しも残っていなかった。
「これが、お爺さんとお婆さんの言ってたことなのね」
アダマンド様の時と言い今回の事と言い、普通の人間ならきっと死んでいただろう。
王様の花嫁になるために必要だからと毎日飲んでいた緑色の苦い液体。
飲み始めた時は体が慣れずに気持ち悪くなって何度も吐いてしまった。吐き気が治まると今度は痛みだ。軋むような、体の中が変わっていく様なそんな痛み。熱も出て大変だった。でも、その度にお婆さんとお爺さんが寝ずに付き添ってくれた。
「お爺さんお婆さん、どうも有り難う」
私の体はきっと何が有っても大丈夫。
部屋の扉が静かに開いた。
「ラウルフ様、そろそろお休み下さいませ。このままではお体を壊してしまいま…」
そう言いかけたサナと視線が重なった。驚いたサナの手からラウルフ様の夜食にと運んだのだろう、肉の乗った皿が滑り落ちた。
「様?」
サナの目からみるみる涙が滲み出てあふれこぼれる。
「様あぁぁぁ!」
泣きながら飛び付いてくるサナを抱き止めた。白い兎耳がへたりと下がっている。私は安心させるようにサナの頭を何度もゆっくりと撫でた。
「サナ、心配かけてごめんなさい」
「も、もう駄目かと…ふぐっ、ぅ、う…ご無事で、良かった、ですぅ」
鼻水を流しながら泣くサナの背を落ち着くまで私はずっと撫で続けた。