第3章 獣の王
サナが私の方へ目を向けて息を止めた。
「っく、何だ、この匂いっ」
シーザーさんが飛び込んだ瞬間に顔を歪めると、慌てて口と鼻を手で覆った。そして気持ちを落ち着けるように息をつく。
「グルル…」
飛び込んできた二人にラウルフ様が私から口を離した。ラウルフ様の顎の力が強くて私の頭の半分は砕けて中から脳がこぼれている。力なくグッタリしている私を見てサナが悲鳴を上げた。
「ラウルフ!」
「ウガァッ!」
シーザーさんの声にラウルフ様は私を抱えたまま警戒するように二人を睨み付ける。高ぶりを埋めたままに距離を取ろうと動いたせいで、結合部から大量の精液がボトボトとこぼれ出た。
「ぅ…」
小さく呻いた私に、サナが名前を呼ぶ。
「様、様あぁ!」
「サナ落ち着け!お前は下がっていろ!」
「でも、でも!様が…し、死んじゃいます!様が死んじゃう!」
後から来た兵にサナが押さえられ部屋の外へと連れていかれた。私はサナの名前を呼んで大丈夫だよと伝えたかったのだけれど、口が上手く動かなかった。
「…しまったな。そんなにちゃんを気に入ってたのかよ…」
シーザーさんが悲しげに唇を噛んだ。
ラウルフ様が私を抱き締めて、離すまいと力を込める。
「あ、ぁ、ぁ…」
朦朧とした意識の中、ラウルフ様の仕草がまるで取られまいと必死に玩具を抱き締めている子供のように思えて何だか可哀想になった。手を伸ばして抱き締めてあげたいのにそれも出来ない。
ラウルフ様が体全体で私を包み込み、回りから私を護り隠す。
「ラウルフ、取らないから。お前のものを取ったりしないから!このままじゃ、ちゃんが死んじまう!」
正気に戻ってくれ、と叫ぶシーザーさんの声。
「またお前は大事な奴を殺しちまう!」
頼む!と必死で叫んだシーザーさんの言葉に僅かにラウルフ様の体が揺れた。
「っ、ゥ…さ、ま…」
私は必死でラウルフ様を呼んだ。息ばかりではっきりとした言葉にはならなかったけど、私の声にラウルフ様が反応した。
「俺は…」
彼が腕の中へと視線を落とした。私は何時ものラウルフ様の瞳と目が有って安堵に小さく笑った。
「っ、んだこれ…何なんだよこれはぁぁ!!」
ウオォォン、と鳴く彼の悲しげな咆哮を聞きながら意識を手放した。