第3章 獣の王
「うぅ、気持ち悪い…」
何とかお昼は食べた。でもどうしても量は少なくなってしまって、サナに心配されてしまった。今は少し休憩したくて芝生が敷かれたお庭の大きな樹に寄りかかって微睡んでいた。
「!」
何かから逃げるように、ウルフ様が走ってくる。慌てて立ち上がって身仕度を整えた。
「俺のことを聞かれたら俺は向こうに行ったと言え、良いな?」
それだけ口にして跳び上がると、樹の上へと姿を隠してしまった。
「ラウルフ!ラウルフー!」
暫くして、ラウルフ様を追いかけるように黒豹さんが現れた。すらりと細くしなやかな肢体に、お城で見かける護衛などをしてくれる人が着ている服を纏っている。でも勲章やら飾りやらが沢山ついているし、きっと偉い人なんだろう。
「あれ、君はラウルフの…」
「こんにちは」
私に気付いた黒豹さんに頭を下げて挨拶をした。
「確かちゃんだったかな?」
「はい」
すると、黒豹さんは私の前で片膝をつくと私の手をとってその甲へと口付けた。わぁ、何だか凄く格好良い。
「俺はシーザー。この国の騎士団長をしているんだ、宜しくな」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
もう一度頭を下げると、黒豹さんが目を細めて笑った。そして手を解放して立ち上がると、周囲をキョロキョロと見回して鼻をヒクつかせた。
「なぁ、あいつ…ラウルフの奴はこっちに来なかった?」
「あ、あの、ラウルフ様なら向こうの方に行かれました…」
「…………」
黒豹さんの金色の瞳が、じっと私を見つめている。嘘だとばれたのだろうかとドキドキしていると、大きく吐息をついて黒豹のシーザーさんは背中を向けた。
「ちゃんに免じて一時間だけ休憩をやるよラウルフ」
ラウルフ様が樹から降りてきた。そして不満そうに眉間に皺を寄せている。
「バレたか」
「ごめんなさい、ラウルフ様」
シーザーさんを見送り、ラウルフ様が先程シーザーさんが触れた私の手をとった。そしてその甲をごしごしと自分の服で擦り出す。
「お前のせいじゃねーよ。それにちょっとは休憩貰えたし。良い」
来い、と芝生に横になる彼に引っ張られて私も芝生に寝転んだ。腕枕してくれるラウルフ様を横目で見ると大きな欠伸をしていた。
「お前も付き合え」
そう言われて私達二人はお昼寝を楽しんだのだった。