第3章 獣の王
「ラウルフ様、ま、まって下さ…」
食べて直ぐに小走りしたから横っ腹が痛い。日頃の運動不足がたたってるようだ。
ラウルフ様が通ると、廊下にいる人達が気軽に声をかけてくる。挨拶をしたり、冗談を言ったり。王様なのにラウルフ様と皆は親しげだ。
「何だ何だ、体力ねーなぁ」
ラウルフ様がバルコニーで足を止めた。既に私の呼吸はヒハヒハと苦し気に弾んでいた。
「も、申し訳ございませ…っ」
「あーあー…」
ゲホゲホッと咳き込んだら、ラウルフ様が呆れたような声を上げた。そして私へ近付くと私を強引に抱き上げた。
「きゃっ!」
バランスを崩しそうになり、ラウルフ様の首元に抱き付いた。
ふわぁ、凄い!フサフサで気持ちいい!私は顔をラウルフ様の首元に埋めて、モフモフの感じを楽しんだ。それを見たラウルフ様が少し照れたように視線を外す。
「手のかかる奴だな。しょうがねーから、俺が抱えて連れて行ってやるよ」
そう言うやいなや、ラウルフ様がバルコニーの手すりに足をかけた。そしてググッと体を屈めて力をためると、足のバネを使って一気に空中へと飛び出した。
「きゃああああああ!」
落ちる、落ちちゃう!浮遊感の後に引力に引っ張られ落下していく感覚。私は怖くて目を固く閉じた。着地の衝撃で体が揺れる。するとまたラウルフ様が跳んで浮遊感。
私は落ちないように震える手で必死にラウルフ様にしがみついていた。
「、目を開けろ」
「こ、こわ、怖いです…」
「大丈夫だから、目ぇ開けろって言ってんだよ」
唸り声が聞こえて、私はラウルフ様に怒られると慌てて目を開けた。
「わぁ!素敵!」
眼下には見事な街並みが有った。でもそれは普通の日本で見る街並みじゃ無くて上手く樹を掘ってその中に家やら店やらを作っている。森の街と言った感じだ。
その木々の枝から枝へとラウルフ様は跳び移り移動していた。
「樹の中に家が有るんですね」
「あぁ、俺たち獣人はこうやって暮らしている」
ラウルフ様が跳んだ先に小さな枝が有った。それが私とラウルフ様の顔に当たる。
「きゃあ!」
「ぶはっ!」
二人して葉っぱの中に顔を突っ込んだ。抜けた時には二人とも葉っぱだらけになっていて、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。