第7章 人外王の花嫁
「…ですからぁ、あの顔はきっと人を何人も殺してますよ!そんな顔をしてました!あの傷だらけのお顔を見ましたか?フードで隠していましたが、私には見えたんです!あの凶悪な目と言ったら…」
白い兎の耳が扉から見えた。私の結婚式を手伝いに来てくれた獣人のサナだ。
「…だって私たちと同じと法律で決まっただろ?決め付けるのは良くない。」
そのサナと話しながら後ろに着いて部屋に入って来たのは、大きな荷物を抱えた虫人のオルガだ。オルガもまた、私の結婚式を手伝いに来てくれているのだ。
「はっ、そ、そうでした!私ってば…」
何の話をしているのか、オルガの言葉にサナの兎の耳が力なく垂れた。そんなサナが今更ながらに気が付いたのか、部屋の中の王様立ちを見回す。
オルガは慌てて王様三人に頭を下げた。けれど、サナは未だに騒いでいる三人に怒ったように顔を顰めた。
「ちょっと、ラウルフ様!何をしてらっしゃるんですか!」
その言葉に三人がピタリと動きを止める。そんな三人の近くにズカズカと移動すると、サナはラウルフ様の背を押し始めた。
「んーっ、んーっ、早く出て行って下さいませ。結婚式前の花嫁には色々とする事が有るものなんです!」
お子様にも障りますので騒がないで下さい!ときっぱり言い切ったサナに返す言葉も無く、王様三人は押されるままに部屋の外へと押し出されてしまった。
そして扉を閉めたサナは、良い仕事をしたとばかりにいい笑顔で額の汗を拭った。
「兎って…強いんですね…」
オルガが引きつった顔でボソッと呟いた。
「さぁさぁ、様。ベールを取って来ましたよ。沢山有りますから、サナが様に一番似合うのをお選びしますね!」
オルガとサナが、街の仕立て屋まで取りに行ってくれていたベールの入った箱の中を漁る。
「んー、やっぱりこれですね!」
「…これだな」
サナの手にはレースがふんだんに使われたベール。オルガの手には花が沢山飾られたベールが握られていた。二人の合間に無言の火花が散る。
「ドレスが上品なので、これくらいが良いんです!」
「ドレスがシンプルな分、ベールはこれくらいの方が良いでしょう」
どうやら二人共譲る気は無い様だ。二人が暫し無言で睨み合ったかと思うと、堰を切った様に言い合いが始まった。
私は、意外と二人は仲が良いのかもしれないと思った。