第6章 蜥蜴の王
「大丈夫です!大丈夫ですから!蜥蜴族だって、幸せになれます!そうしたら一緒にお日様の下でお弁当もってお出かけして…楽しい事とか、沢山っ…。今、ルナール様が色々頑張ってます…だから、だから…」
私の言葉にカサドラさんが小さく笑った。
「そうか、それなら、蜥蜴族も安心、だな…」
「はい、はい…」
私はカサドラさんに何度も頷いて見せた。溢れ出る涙を止める事が出来なくて、しゃくりあげていると、カサドラさんが優しく頭を撫でてくれた。
「お前は、ほんと、に、良い、おんな、だ…お前、を、あの、王共、に、任せる、のは…気に、くわない、が…」
しがみつき胸元に顔を押し付けて頭を左右に振った。すると、擽ったそうに嬉しそうにカサドラさんが笑った。
「一瞬、でも、俺の、子供が、出来る、夢を…与えてくれ、て…あり、がとう、な?」
段々とカサドラさんの呼吸が細くなって行く。まるでお別れの言葉みたいな台詞に私はカサドラさんにきつくしがみついた。
「や、嫌!嫌、です!」
「ははっ、お前、嫌って、言ってばっかり、だな」
カサドラさんが私をそっと地面に降ろした。そしてそのまま覆いかぶさって私へと口付けた。優しく触れるだけのキス。
「最後くらい、嘘でも、好きって…言ってみろよ…俺様は…」
カサドラさんがフラリと立ち上がった。私は慌てて反転してカサドラさんに近付こうと手で地面を掻いた。
「カサドラさん!」
「俺様は…お前に、惚れちまった…みたいだ」
カサドラさんが後ずさり、私から離れて行く。地面が途切れた崖のその先は暗い暗い穴の底。マグマが待ち受ける地獄の底だ。
「カサドラさん!カサドラさん!」
「…もっと、お前と、違った、会い方、したかったなぁ…」
カサドラさんのかかとが崖の端まで来て、石が転がり落ちていく。
「待って!カサドラさん!行かないで!!」
───、愛してる…
「いやああぁぁぁ!」
カサドラさんが私を見て微笑んだ。その後、カサドラさんの体は卵を大事そうに抱いたまま、マグマが待ち受ける地獄の底、深く深く落ちていった。