第6章 蜥蜴の王
ミシミシ、メキメキと音を立てたと思うとカサドラさんが痛みに顔を歪めた。
「カサドラさん?!止めて下さい!」
角は頭蓋骨と繋がっているのだろう、顔の皮膚まで裂けて血が溢れ出る。
「や、止めて!カサドラさんの角がっ」
私は何とか止めさせ様とカサドラさんの腕を引っ張った。でも私なんかにカサドラさんの手を止める事は出来なくて、メリメリと皮膚が裂けて最後にはボギンと鈍い音をさせて角が折れてしまった。
血が吹き出る。
その血が目に入ったのか、カサドラさんが片目を痛そうに歪めた。カサドラさんの手の中に、血で汚れた大きな角が握られている。
「あ、あ…カサドラさんの、角、が…」
光沢があって立派で、威厳を放っていたカサドラさんの頭にあったはずの角。
「ほら、お前に、これ…やる、よ」
受け取ろうとしない私に強引に自分の角を握らせた。カサドラさんの赤い宝石が光る立派な角。
笑って見せる今のカサドラさんには、あの凛々しい角が一本無い。
「この角を、擦って…飲むんだ。そうすれば、お前、は…子供も、産める、し…体も、以前通り、丈夫に、なる……良いか?ゆっくり、少しずつ、飲め、よ?」
訳が分からなくて、私は泣きながらカサドラさんを見上げた。
「お前が、飲んでた…あの、薬に、足りなかった…もの……蜥蜴族の、王族の、頭にだけ、ある、角だ」
キドラさんが希少で手に入れる事が出来ないだろうと言っていた物、それが蜥蜴族の角だったなんて…
そんなの、要らないよ。カサドラさんを傷つけてまで、そんなの欲しくない!私は持たされた角をカサドラさんへと突き返した。
「嫌、です…嫌です!こんなの、要りません!」
「っ、はっ!我侭、だなッ、くッ」
カサドラさんの目の焦点がずれた。頭を振ってカサドラさんが意識を繋ぎ止める。
「我侭、で、生意気、で…でも、優しくて、良い、おんな、だ」
カサドラさんが私を強く抱き締めた。
「このまま…お前を連れ、て、逃げて…誰にもっ、知られない、場所、で、二人で暮らす、ってのも、良かったん、だがな…」
俺はもう限界みたいだ、と小さく弱気を口にするカサドラさんに息を飲んだ。私も手をまわして必死にしがみつく。だって、このまま、このままカサドラさんが消えてしまいそうだったから。