第6章 蜥蜴の王
「危ねぇ!」
カサドラさんが私を庇うように抱き込んだ。その背中に魔力で出来た矢が数本刺さった。
「カサドラさん!」
「…ばっか、野郎…に、当たったら、どうする、気だ…」
カサドラさんは振り返ると手にした槍を投げた。それは先程魔力の矢を射た悪魔の頭へと刺さった。その後からも沢山の矢が飛んで来て、私を庇ったままのカサドラさんに刺さる。カサドラさんは顔を歪めヨロヨロと立ち上がり歩き出した。
「カサドラさん、血がっ…」
「…あぁ、少し、いてぇな…」
背後で、こっちだ、と兵の声が聞こえてカサドラさんが奥歯を噛み締めると痛みを堪えて駆け出した。そして大きな岩の影へと隠れると、その岩に凭れる様にして息をついた。
「な、にか…何か、血を止める物を…」
「いらねぇ」
「でもッ」
「いらねぇ!それより…。良く聞けよ?一回しか言わねーぞ?」
今更ながらに良く見ると、カサドラさんの体は既に傷だらけであちこちから血が滲んでいた。
「…お前はイラナイ子なんかじゃねーよ。俺はお前に会えて、良かったと思ってる。神様何ぞ信じねーが、お前に会えた事を感謝してやっても良いと思うくらいだ」
「っ…」
カサドラさんの息が荒い。苦しそうに顔を歪める姿が心配でカサドラさんの手を握った。
「…良いか、あの王達だって同じだ。俺が送ってやったせっかくの極上の雌なのに見向きもしねぇ。…お前じゃ無くちゃ駄目なんだよ…」
カサドラさんの手が私の頬を撫でた。そして優しく微笑みかける。
「お前じゃねーと…じゃねーと、駄目なんだよ。あの王達も、そして…俺も…」
あそこだ、あの岩陰に居るぞ。と声が聞こえる。兵が段々と集まって来る気配がした。
「なぁ、もっと自分に自信を持てよ。んで、王達を信じてやれよ…あいつら、お前にメロメロだぜ?」
ははっと笑ったカサドラさんが、ゴホッと咳き込んだその口から大量の血を吐き出した。
「カサドラさん!」
「、良いか?お前を拐ったのも、傷付けたのも俺の独断だ。他の奴等は関係ねぇ…分かったな?」
カサドラさんの手が私の髪を愛しげに梳く。
「何だよ、泣いて…くれんのか?あぁ、そうだ、忘れる所だった」
私は何時の間にか泣いていた。カサドラさんは優しく笑って私の涙を指で拭った後、自身の角へと手をかけた。