第2章 悪魔の王
貼り付けられた悪魔を目にして私は驚きに目を見開いた。皆、裸のまま手足に釘を打たれて苦し気に唸っている。私の頭を撫でながらアダマンド様が笑った。
「見てみろ。一番左の奴はお前に食事を作らなかった料理長だ」
料理長と紹介された悪魔の口には、石が沢山詰まっていた。お腹もパンパンに膨れていて、何かを言おうと口を動かす度に石が転がり落ちている。アダマンド様が指を鳴らした。するとその人のお腹が破裂した。お腹に詰まっていた石が周囲に散らばった。
「右の者はそなたの護衛に任命したはずなのだがな」
そう言えば、何度か見かけたことがある。
「私の命令に背きそなたを殺そうとした」
その悪魔は既に下半身が無かった。上半身からは内蔵がぶら下がり、血が滴っている。それでも死なずに生きていた。
「アダマンド様、お許しを…お許しを…」
「見付けて直ぐに腹を裂いたのだが、まだ生きておる…何とも腹立たしいものよ」
護衛の悪魔の言葉すら鬱陶しいとアダマンド様は邪魔臭そうに手を振った。
「ギャァ!」
悪魔はビシャリと音を立てて肉片になった。
「ひぃぃぃ」
両隣の悪魔が殺されて最後に貼り付けにされている女の人が怯えた声を上げた。彼女の事は良く知っている。私のお世話をしてくれていた召し使いの人だ。
「お許し下さい!お許し下さい!アダマンド様ぁ!」
女の人が泣きながら必死に懇願する。彼女の足を水がタラタラと伝っていた。失禁してしまったのだろう。
「私が悪うございました!謝ります!様にも謝りますから!どうか!どうかお許しを!」
そんな彼女をアダマンド様が汚いものでも見るような、冷たい目で見詰めている。こんなアダマンド様のお顔は初めて見た。
「その召し使いはそなたが気に入らぬと、食事を与えず護衛をそそのかして殺そうとした」
一番気に食わぬ、と忌々しげに吐き出すとアダマンド様が片手を翳した。するとそこから飛び出した風の刃が女の人の両手足を切断した。
「ぎゃああ!」
釘で打たれた手足を切られて支えを失い地面に転がった悪魔に、何処から現れたのか犬が近付いてきた。フンフンと匂いを嗅ぎ、鼻息荒くのし掛かる。
「いやあああぁ!」
女の人の悲鳴に声を上げて笑ったアダマンド様が私の頬へ口付けた。
「愛している」
優しい瞳で私を見つめて愛を囁いた。