第2章 悪魔の王
アダマンド様の香りに包まれて、その安心感に私は体の力を抜いた。そっと手を伸ばしてアダマンド様の背中へと回し頬を預ける。
「っと、すまぬ!」
アダマンド様が慌てて体を離した。そして気遣うように私の体を撫でてくる。
「痛まぬか?」
「はい、大丈夫です。全然痛みとか有りません。私、丈夫なのが取り柄なんです」
安心させようと笑って見せた。アダマンド様が私の首元へと手を伸ばして、そこに巻かれた包帯をほどき始めた。私は大人しくされるがままにしている。
「私が駆け付けた時、そなたはまだ生きていた。しかし裂かれた腹からは中の臓物が全て外へと出て、首も半分ほど肉が無くなりちぎれかけておった」
解けた包帯の下には、何時も通りの私の首があった。アダマンド様がほっと息をつき、今度は腹部に巻かれた包帯へと手をかける。
「二日間、そなたは目を開けず…もう、助からぬかと思ったぞ」
お腹の包帯も外されて、私は裂かれたであろうお腹を見てみた。でもそこは傷ひとつ残っていない何時もの私のお腹だった。
そう言えば、昔車にひかれた事がある。勢いよく跳ねられて何メートルも飛んだらしいのだけれど、私は気が付くと元気で怪我もなかった。ただのラッキーだと思っていたのだけれど、今回のは流石にラッキーなだけではないと思う。
「…ログとジルに感謝せねばな」
アダマンド様が私のお腹を優しく撫でた。そして改めて私を優しく抱き締めてくれる。
生きていて良かった、と抱き締めるアダマンド様の体が僅に震えていた。
暫く抱き合っていたアダマンド様が私にシーツを巻き付けると抱き上げた。そして扉を開けさせて廊下へと歩き出す。
「アダマンド様、何処へ行くのですか?」
「そなたに良いものを見せてやる。それに腹も空いたであろう?食べられるならそなたの好きなものを好きなだけ用意してやろう」
アダマンド様の指示を受けて召し使いがバタバタと慌ただしく動き出した。アダマンド様は歩みを止めぬままに最初の日に案内された花が咲き乱れる中庭へと向かった。
「寒くは無いか?」
「はい、大丈夫です」
アダマンド様はガゼボに用意された椅子へと腰かけて私を膝へと座らせる。すると、ある方向を指差した。
「、あちらを見てみろ。愉しいものが見れるぞ」
視線を向けた先、三人の悪魔が貼り付けにされていた。