第6章 蜥蜴の王
カサドラさんは兵の報告を受けた後、急いで部屋から出て行った。それから部屋には戻って来ていない。
一体外はどうなっているんだろうか?
お世話をしに来てくれた兵士さんに聞いてみても、言葉を濁すだけで答えてはくれなかった。でも、その様子から見ると余り戦況は良くなさそうに思えた。
あれから一日経った。卵の色は真っ白のまま、カサドラさんが言うように色が変わる様な気配は無い。
忙しなく外を走り回る音に不安が掻き立てられた。
どれくらい経っただろうか、外がより騒がしくなって、時おり悲鳴のようなものが聞こえて金属がぶつかる様な音も聞こえて来た。
私はいても立ってもいられなくて、手を使ってベッドを移動した。ベッドから転がり落ちても這う様にして扉へと向かう。
部屋の中程まで来た時、扉が勢い良く開いた。
最初はカサドラさんが戻って来たのかと思ったのだけれど、違った。
「王妃様!」
そこに居たのは犬の獣人だった。その獣人は周囲へ知らせる様にワオォォンと大きく吠えた。
「王妃様、助けに来ました!ラウルフ様も、他の王様方も居ます。今すぐここから…ッ」
胸元から槍が突き出した。血が頬へと飛び散る。獣人は痛みに顔を歪めた後、力を無くして倒れ込んだ。
「きゃああ!」
獣人から槍を引き抜いたのは、血塗れのカサドラさんだった。ここまで走って来たのだろう、肩で息をしている。
「ちっ、見付かったか…」
カサドラさんがチラリとベッドの方へと視線を向けた瞬間、悲しそうに目を閉じた。でも直ぐに目を開くと、ベッドへと近づいて卵を手にした。そしてその後に私を抱え上げる。
「ここはもう駄目だ。…逃げるぞ」
その時、キドラさんが部屋に駆け込んで来た。
「カサドラ!さん!」
カサドラさんに抱えられた私を見て、キドラさんがカサドラさんへと詰め寄った。
「カサドラ、何処へ行く気です?もう無駄ですよ…解っているんでしょう?降伏を…」
「兄者」
言葉を遮ったカサドラさんが不敵に笑った。
「兄者こそ、解ってんだろ?俺達蜥蜴族が生き残る方法」
その言葉にキドラさんが息を飲んだ。カサドラさんはキドラさんの肩を軽く叩いて笑った。
「俺は、兄者の弟で良かったと思ってる」
元気でな、と言い置いて止めようとするキドラさんの声を背にカサドラさんが部屋の外へと駆け出した。