第2章 悪魔の王
「…の様な親など必要無いだろう」
噎せかえるような血の臭いがする。大きな男の人の足元に女の人と男の人が水溜まりの中に倒れていた。血の臭いはそこからする様だ。
「…さま、本当にこの様な娘で良いのですか?」
「うむ、この娘が良い」
「承知致しました。では我等で時が来るまで育てましょう。実験は良好。その薬をこの娘に与えてあなた様の花嫁に…」
身体中が痛くて、お腹が空いてとっても寒い。そうだ、私は神様にお願いしたんだ。
助けて下さい、助けて下さい。お…さんもお…さんも私を叩くの。声を出しても叩かれて、お風呂にも入れない。ご飯も貰えなくて…凄く我慢したのだけれどもう我慢できなくて。ひもじくて外に出ようとしたら凄く凄く殴られた。
あぁ、私はこのまま死んでしまうかもしれない。神様、助けて下さい。
何でもします、だから誰か助けて!
私は叩かれながら必死で祈った。そうしたら本当に神様が現れたの。頭に立派な角を生やした綺麗な神様。
神様は私を自由にしてくれた。もう叩かれることは無い。
神様の手から赤く濡れた滴がポトンと落ちる。神様は私を抱き上げると頬へ口付けた。
「待っているぞ…私の花嫁…」
私は目を開けた。何か夢をみていたような気がするけれど思い出せない。
私はベッドで寝ていたらしい。ふと、ベッドの脇を見ると何故かアダマンド様が突っ伏して眠っていた。
「アダマンド様?」
眉間に皺を寄せたまま眠るアダマンド様の手が私の手を握っていた。
そう言えば、私は召し使いの人に案内されて入った部屋で襲われたのだ。首に噛み付かれてお腹も剣の様なもので裂かれた記憶がある。なのに私は生きていた。首と体に包帯は巻かれているけれど、もう痛みは無い。
もしかして、アダマンド様は私についていて下さったのだろうか。そう思うと嬉しさに頬が緩んだ。
「アダマンド様」
俯せのアダマンド様の頭へと口付けると、彼が身動ぎした。だからもう一度名前を呼んだ。
「ん……」
すると彼は寝惚けたように私の名前を口にした後、慌てて起き上がり私を見た。取り乱したアダマンド様を見るのは初めてだ。何処か疲れている様な感じがする。お仕事も忙しいのに、きっと迷惑をかけてしまったに違いない。
「っ、!」
アダマンド様がとても強い力で私を抱き締めた。