第6章 蜥蜴の王
「外に…出られた?」
夕暮れに赤く染まっている沢山の木々。つい足を止めてしまった私の後ろから音が聞こえて来た。
──グォオオオン
その低い咆哮は穴の中から響いて来た。私はその声に我に返ると、キドラさんに言われたように右方向へと走った。キドラさんが言ってた大きな樹を目指して。
さっきの鳴き声、凄く怒っているみたいな感じだった。
私の頭にカサドラさんの姿が思い浮かんで、慌てて頭を振った。恐怖に震えそうになって、大丈夫と自分に言い聞かせる。
「はぁ、はぁ…大きな、樹…」
その樹は幹も太く葉も沢山しげっていて、他の樹よりも随分と立派だった。私はその樹の根元へと辿り着くと、呼吸を整えながら周囲を見回した。
ここでキドラさんが言ってた人が待っているはず。
「何処に…」
見回してみても、それらしき人は見当たらない。不安に心臓が早鐘を打つ。樹の反対側も確認してみたけれど、やっぱりそんな人はいない。
もしかして、場所を間違えた?それとも何かあったのかな。嫌な想像に変な汗が滲む。
どうしよう、待っていた方が良いよね?それとも一刻も早くここから距離を取った方が良いのかな?
私は頻りに背後を振り返った。今にも後ろから蜥蜴の兵士達が追いかけて来そうだ。風で揺れる葉ずれの音や鳥の鳴き声にさえ緊張する。
暫く動く事が出来ずにいると、遠くから声が聞こえた。
「おい、居たか?!」
「早く捕まえろ!」
私はその場所から駆け出した。もう待っていられない。きっと私を探してるんだ。早くここから離れないと見付かってしまう。
ここが何処かも分からない。何処へ向かって走っているかも分からない。それでも私は早く逃げなくちゃ、と走った。
「うっ、ううっ…」
不安に泣きそうになりながら、必死に走る。
「見付けたぞ!」
そんな声が背後から聞こえた。そしてガサガサと葉をかき分ける音が近付いてくる。
やだ…嫌だ!
足が千切れるかと思う程に思い切り走った。鼓動が速すぎてもう息だってまともに吸えない。でも背後からの気配が確実に近付いてる。
「ハァ、ハァッ…っ…」
必死で駆ける。
早く、早く早く!
その時、急いていて注意不足になっていたのか木の根につまづいて転んでしまった。やだ、こんな時に…早く起きて逃げないと…
「…追い付いたぞ」
その声は息を切らしたカサドラさんだった。