第6章 蜥蜴の王
「…もう大丈夫みたいですね、行きましょう」
私はキドラさんの後を追いかけた。でもさっきまでの、ここから逃げ出せるかもしれないという嬉しさは何処かへ行ってしまっていた。
今の私は、嬉しさよりも戸惑いが大きくなっている。
どれくらい歩いただろうか。空気の動きを感じて、土の湿った匂いではなく外の匂いがした。
出口が近いのかもしれない。
「…参りましたね」
曲がり角の向こうを覗き込んだキドラさんが眉を潜めて呟くと、私の肩を掴んで目線を合わせた。
「さん、私が部屋にいない事がカサドラの耳へと入ったようです」
向こう側から、キドラさんを探している声が聞こえる。
「貴女の事がバレるのも時間の問題でしょう」
その言葉に体を強ばらせた。私が檻の中にいない事にカサドラさんが気付いたら、きっと追っ手がかかる。
「角を曲がって真っ直ぐ行けば出口です。出てすぐに右へと進んで下さい。暫く行くと大きな樹が有るのですが、そこで私が手配した兵が貴女を待っています」
そう言ってキドラさんが小さく笑った。
「…もし、私が他の国王達と立場が同じであれば…貴女を花嫁に出来たのでしょうか」
「キドラさん?」
「……何でも有りません。さぁ、一緒に居られるのもここまでです。私が兵達を連れてここから離れたら直ぐに出口へ向かうんですよ?」
分かりましたね、と念を押すキドラさんに私は抱き着いた。一瞬驚いたキドラさんが私を優しく抱き返す。
「有難うございました」
「さん、どうかお元気で」
キドラさんが私の背中をポンポンと優しく叩いた。そして体を離すと、笑みを一つ残して角を曲がり兵達の元へと歩いて行った。
私は息を飲んでタイミングをはかる。
キドラさんが兵達二人を促すようにして歩き出した。
今だ!
全速力で走った。体が痛い。でも出口はすぐそこに有る。体力も落ちていて、足がもつぼれそうになりながら必死で走った。
段々と外の匂いが強くなって来る。
木々の匂いが風に乗って私の鼻を擽る。
もう少し、もう少し…
ハァハァと荒い息がやけに耳に響いた。僅かな距離のはずなのに、凄く出口が遠く感じる。
早く…見つかる前に早く外へ!!
急に視界が広がった。周囲を囲む様な木々にここが森の中なのだと理解した。
やった!外に出れたんだ!
私は大きく息を吸い込んだ。