第6章 蜥蜴の王
まるで迷路のような穴の中を息を潜めながら進んで行く。今までは牢とキドラさんの部屋位しか行った事が無かったけれど、こうして歩いてみると地中のこの穴は縦に横にと縦横無尽に走っていて、小さな部屋も沢山作られていた。
私が捕らえられていた場所には沢山の鎧を着た兵士の人達が居たけれど、今私が居る場所は居住スペースらしく、部屋の中だけでなく通路にも所狭しと生活用品などが溢れていた。
ふと、通り過ぎた小さな部屋に寄り添い生活している二人が見えた。お年寄りなのだろう、余り身なりも良く無くて破れた布を身に纏っていた。
「止まって下さい」
先を行くキドラさんが振り向いた。そして扉代わりの布で仕切られた部屋を覗いて誰も居ないのを確認し、そこに私を引っ張り込んだ。
隠れて息を潜めていると、外から声が聞こえた来た。
「カサドラ様ー!」
「わぁ!カサドラ様だ!」
無邪気な二人の子供の嬉しそうな声が聞こえる。
「よぉ、お前ら良い子にしてたか?」
聞こえてきたカサドラさんの声が何処と無く優しい。
「してたよ!良い子にしてた!」
「僕も良い子にしてた!ね、だから…カサドラ様!」
「分かってるよ。ほら持って来てやったぞ」
カサドラさんが何かを差し出したのだろう、子供達が歓喜の声を上げた。
「やった!お菓子だ!」
「甘いの甘いの!」
「…少しで悪いな、また持って来てやるから」
扉替わりの布で仕切られているので、外の様子は見えないけれど。きっと子供を甘やかすカサドラさんの姿が有るのだろう。
私は部屋の中を見回した。薄汚れた家具に、デコボコに歪んだ鍋。壁に掛けられた服は何回も着続けているのだろう、所々擦り切れてしまっていた。それでも大事に掛けられている。
私は目に映った光景に息を飲んだ。
「…外に居るのは、最後の子供達です…大事な、大事な子供達なんですよ。…でも菓子すら満足に与えてあげられないのです」
私が不甲斐ないばかりに、と続けたキドラさんが悔しそうに目を閉じた。楽しそうな子供達とカサドラさんの声が遠ざかって行く。
カサドラさんは嫌な人だと思っていた。思っていたけれど、きっとさっきの子供達やここで生活する蜥蜴の人達を護ろうとしてる。
陽の当たらないこんな所では食料だって、揃えるのも苦労しているに違いない。
私は、モヤモヤとした何とも言えない気持ちに唇を噛んだ。