第6章 蜥蜴の王
「さんっ、さんっ」
私を呼ぶ声が聞こえた。軽く体を揺らされてさっきまで責め苛まれていた体が軋んだ。
「んっ…」
私は眠気を振り切って目を開けた。そこに居たのは角に青い宝石を持つキドラさんだった。
「さん…良かった…」
私の様子を見て安堵の息を付いたキドラさんが、慌てて周囲を見回し警戒した。そして異変がない事を確認して息を吐き出す。
「ご無事だったんですね。カサドラさんがキドラさんを拘束すると言っていたので…」
ご無事で何よりです、と続けるとキドラさんが複雑そうに笑って肩を竦めた。
「無事…と言う訳でも無いのです」
ベッドから体を起こした私の肩を両手で掴んで、キドラさんが私の顔を覗き込んだ。その表情がとても真剣で厳しいものだったから私は緊張に喉を鳴らした。
「さん、良く聞いて下さい。今から貴女をここから逃がします」
「えっ…」
言われた言葉が一瞬理解出来なくて目を瞬いた。
「で、でもっ…」
「しっ!静かにして下さい!」
私は驚きについ大きな声を上げてしまって、慌てて口を閉じた。
「もう手配は済ませています。私が本格的に拘束される前に…今しかチャンスは無いんです」
キドラさんがとても真剣で、私は体を強ばらせた。ここから出る事が出来るかもしれない。
嬉しさに心が弾む。
私は唾液を飲み込むと、キドラさんに頷いて見せた。
何時も居る見張りの兵は居なかった。キドラさんに首輪を外してもらい、服を着替えて檻を抜け出す。カサドラさんとの行為のせいで体が痛んだけれど我慢した。
足音を立てずに、気配を殺してキドラさんの後をついて行く。
「さん、こっちに!」
急に引っ張られて、物陰に隠れた。それから直ぐに巡回の兵が通り過ぎる。…良かった、見つからなかった。
怖い、凄く怖い…
私は見つかるかもしれないという恐怖に体が震えるのを止められなかった。そんな私を見たキドラさんが思い出した様に何かを差し出した。
「さん、これを…すいません、これしか見付けられませんでした」
それは、取り上げられたはずのキリヤ様から貰ったチリの花を模したシルバーのブレスレットだった。私はそれを腕に付けて胸元に抱き締めた。
「もう少しです頑張って下さい」
「はい!」
私は力強く頷いた。