第2章 悪魔の王
一緒にお風呂に入った後、力尽きた私をアダマンド様が綺麗にして部屋へと運んでくれて一緒に休んだ。
「アダマンド様…」
部屋に戻って昨夜の事を思い出す。彼の名前を呼ぶと、優しく頭を撫でてくれる姿を思い出して頬が緩んだ。
五日目。今日の朝食と昼食は、もう血の入ったグラスすら出て来なかった。何時も来ていた召し使いの人も部屋に来ることは無くなって、私は自分で部屋の掃除を始めた。
部屋の外に出ると冷たい視線や私への不満を耳にする。だから外に出る気にはどうしてもなれない。今日は一日お掃除をしようと決めた。
でもご飯だけは何とかしないと困る。かと言ってアダマンド様に相談するのは気がひけてしまう。私は大きく吐息をついた。
多分、アダマンド様と食事を取る時はまともなものが食べられる。昨日もそうだったもの。だから、時々アダマンド様と食事をご一緒して貰えれば…
そんな事を考えていると、扉が開く音がした。ノックも何も無かった。
「アダマンド様がお呼びです」
それだけ告げて召し使いの人が歩き出した。私は慌てて追いかける。夕食だろうか?それにしては時間が早い。しかも、何時もアダマンド様の元へ行くときは綺麗に着飾って出かけていたのに今日はそれがない。
そうこうしている内に食堂を通りすぎた。アダマンド様の部屋に行く訳でも無いようだ。段々と城の奥の来たことの無い場所までやって来て、私は不安になって来た。
「あの、何処へ行くのですか?」
「……………」
問いかけても答えてくれない。
「アダマンド様はどちらに…」
「こちらです」
召し使いの人が足を止めた。どうやら着いたらしい。ほっと安堵の息をつくと、私は示された扉をノックした。でも中から返事は返ってこない。
「アダマンド様?」
私は恐る恐る扉を開けて中を覗きこんだ。部屋の中は真っ暗だ。
「アダマンド様?」
もう一度名前を呼びながら、部屋の中へと足を踏み入れた時だった。暗闇から伸びてきた手が私の腕を捕まえて強引に引っ張った。
「きゃあ!?」
後ろを振り返ると、扉が閉まる瞬間の隙間から召し使いの人が楽しそうに笑っていえるのが見えた。私の中で嫌な予感が膨れ上がる。
「アダマンドさ…っ!」
首が凄く熱い。誰かに噛み付かれた。
そして私のお腹を金属が裂くのが見えた。ボタボタと零れる血と内臓。私の意識はそこで無くなった。