第6章 蜥蜴の王
キドラさんは、何だか険しい顔で去って行った。知り合いも仲間もいないここでは、キドラさんに頼るしかない。
でも、キドラさんの立場もなかなかに難しいものが有るみたいだ。雌のいない国の王様…せっかく、雌の受精率を上げたり体を一時的に強化できる薬を持っているのに使う雌がいない。
片や雌はいても、受精率が低くて…受精率を高める薬が無い。
もし双方が仲良くして、薬の提供や情報をやり取りする事が出来れば問題なんて無くなるんじゃ無いだろうか。
きっとそれは難しい。でも、もし上手く行けば皆がきっと幸せになれる。蜥蜴族の人達だって、きっと…
ルナール様が国の改革に乗り出している。少しずつかもしれないけれど、きっと混血も住みやすい世界になるに違いない。
カサドラさんに話してみようか…もしかしたら分かってくれるかもしれない。
私はそんな気楽な事を考えていた。
何かの音が聞こえて目が覚めた。すると、何時の間にか周囲が真っ暗になっていた。
おかしいな、何時もは見張りの兵の人が灯りが消えそうになると補充してくれるのに…
どうしたのだろうと手探りで周囲を確認すると、檻の向こう側で黄色く光る目が二つ。私をじっと見ていた。
「きゃあ!」
ついお化けかと思って叫んでしまうと、その目は不機嫌そうに細くなった。
「うるせぇ…」
光る目が動いたかと思うと、ガチャガチャ、ガチャン、と音が鳴った。檻の扉が開けられたんだ。そして誰かが入って来ると、手元の灯りに火を灯した。
「っ、カサドラ、さん…」
周囲が明るくなって、その人物が誰かを理解して体が強ばった。嘘、キドラさんがカサドラさんが中に入れないように鍵を変えたはずなのに。
カサドラさんは灯りをランプへと移すと、私の方をじっと見詰めた。見下ろされて居心地が悪くて視線を泳がせる。
ふと、私は思い出した。そうだ、他の国と仲良く出来ないか言ってみようかな…
「あ、あの、カサドラさん…他の国と、仲直り、とかは出来ないのですか?」
「あぁ?!」
カサドラさんの表情が一気に険しいものになる。
「薬を分けて、仲良くすれば他の国とも…」
「黙れ!!」
吠える様に叫んだカサドラさんの声がビリビリと周囲を震わせた。カサドラさんが私の鎖を掴んで乱暴に引き寄せる。
「…お前に何が分かる…」
カサドラさんが、小さく呟いた。