第6章 蜥蜴の王
「お前に俺達蜥蜴族の何が分かる?!」
「っ、苦しッ…」
カサドラさんの瞳が怒りに燃える。私の首元の鎖を掴んだ彼は私を引っ張り上げた。足が地面から離れて、体重が首元へとかかり息が苦しい。
私は手を引っ掻いて何とか逃げようと足をばたつかせた。
「蜥蜴ってだけで殺される。仲間がどんどん減って…隠れる様にこんな穴蔵でしか生活出来ねぇ惨めさがお前に分かるかよ?!」
鋭い瞳が私を睨み付ける。
「食い物を確保するだけで一苦労だ!母上は一度も陽の光を浴びずに病気で死んだ。父上は母上の薬を手に入れようと外に出て…殺された!」
揺らされて金属の輪が首へとくい込んだ。一瞬息が出来なくなって咳き込んでしまう。
「父上も母上も死んで、まだ小さい兄者と俺様がどれだけ苦労したか!周囲の重圧に押し潰されそうになりながら、兄者がどれだけ必死であの薬を開発したか…お前に分かるのかよ!?」
カサドラさんは怒鳴り、怒っていた。
でも、私にはそんなカサドラさんが泣きながら叫んでいる様に見えた。
お母さんもお父さんも亡くして、残された小さい王子二人はどれだけ不安だっただろうか。外に出れば敵だらけで、幼い二人で蜥蜴族を護って行かなければならない。その重圧はどれ程のものだったのだろうか。
カサドラさんは好きじゃない。乱暴で酷い事ばかりする…でも、それでも、この人は可哀想な人だ。
私はカサドラさんの手を引っ掻くのを止めた。代わりにそっと手を添えて優しく撫でてみる。
泣き止んで欲しいと思った。カサドラさんは泣いていないけど、まるで泣いている様に見えるこの人が泣き止んでくれると良いと思った。
「っめ、なさ…」
喉が締め付けられて上手く話す事が出来ない。でも私の一言が彼を傷付けたのだから、私は謝らなくちゃいけない。
「ごめ、なさッ…カサドラさ、傷付けて、ごめん、なさ、ぃ…」
そんな私の言葉を聞いたカサドラさんが驚きに目を見開いた。私はそっと震える手でカサドラさんの手を優しく撫で続けた。
カサドラさんの手がブルブルと小さく震え出す。
「っ、そ…くそっ!」
カサドラさんは私を乱暴に地面へと投げ付けた。ガツンと頭が地面にぶつかって強い痛みと眩暈がする。
「ッ、あぅ!」
「そ、そうだ、孕まなかったお前に、仕置をしないと…なぁ」
私の服に爪をかけたカサドラさんは一気に私の服を引き裂いた。