第6章 蜥蜴の王
「っ、う、うぅ…」
涙が溢れて止まらない。私は泣いた顔を見られたくなくて、両手で顔を覆って必死で嗚咽を堪えた。カサドラさんが去って行くと、キドラさんが檻の扉を開けて中へと入って来た。そしてベッドの上で泣く私のそばに腰掛けて、そっと頭を撫でてくれる。
「さん、申し訳ございません…」
力無く肩を落とすキドラさんの大きな手が、恐る恐る私を撫でる。
「ここには近付けさせない様に言い付けていたのですが、私の力では…それに貴女に子供を産ませる事に賛成な者も多く…」
一度そこで言葉をきったキドラさんが、迷った様に視線を下げてから口を開いた。
「実は、貴女を蜥蜴族の皆に与えるべきだとの声も上がっているのです」
私を与える?私は泣きながらもキドラさんの言葉の意味を問おうとして顔を上げた。目の合ったキドラさんが、私から逃げるように視線を外す。
「…与える、って…」
「貴女に、産めるだけの子を…蜥蜴族の子を産ませろと…」
キドラさんの言葉の意味を理解してゾワゾワと嫌悪感が走った。キドラさんだけでなく、他の蜥蜴族とも交尾をしろと言っているの?
「そ…んな、でも、妊娠出来る薬が有るなら…それを使って蜥蜴族の…」
「…………蜥蜴族に、もう雌は居ません」
私は驚いて、涙が止まってしまった。
「産まれてくるのは雄ばかり…子を産める雌は、もういないのです」
そう言えば、ここに来て蜥蜴族の女の人を見かけた事が無い。たまたまだと思っていたのだけれど…
「他の種族と交わっても、互いの血が強くて、それぞれの種族の特徴を持つ子供が産まれます。混血の…特に蜥蜴との混血は嫌がられます」
それを聞いて、ルナール様の国での事を思い出していた。お医者様にも満足にかかる事が出来ない人達の事。
「混血は蜥蜴の中でも嫌がられますから、居場所が無くなってしまうのですよ。でも人間なら…」
キドラさんが涙で濡れた私の頬を拭ってくれた。
「人間の血の力は弱いので、交われば蜥蜴の子が産まれます」
それで、カサドラさんが時間が無いと俺達の一族は限界なのだと言っていた意味が分かった。
「幸いな事に、貴女にはまだ子供はいません。だから、今の内に…早く貴女を逃がさなくてはいけない…」
キドラさんが何かを決心したような強い眼差しで私の手をギュッと握った。