第6章 蜥蜴の王
何時まで泣いていただろう。大人しくなった私の手を握ってキドラさんが私をじっと見詰めた。
「必ず、必ず貴女を帰してみせますから」
私はキドラさんの言葉に何も反応を返すことが出来なかった。
だって、私には分かっていた。私に子供が出来ていたとしたら、人間界で蜥蜴の子供を産むわけにはいかないもの。もう私は帰ることが出来ない。
人間界にも、愛する王様達の元にも。
あの後、大人しくなった私をキドラさんが甲斐甲斐しくお世話をしてくれた。着替えも、ご飯を食べようとしない私にご飯も食べさせてくれた。でも、私はもう何も考えたくなかった。
暫くはそんな時間が過ぎた。
そして二日程経った位だろうか、熱も引いて体の痛みも無くなった頃、外が騒がしくなった。
「カサドラ様!お待ちください!」
「キドラ様からカサドラ様を入れぬ様にとご命令が…」
「邪魔だ、どけ!」
止めようとする兵士さんを突き飛ばし、キドラさんが私の檻へとやって来た。
「どう言う事だ?!」
キドラさんが私を怒鳴りつけ、拳を檻へと叩きつけた。私はそんなキドラさんに体を硬くする。カサドラさんは檻の扉を開けようと鍵を差し込んだのだけれど、何故か扉が開かないみたい。ガチャガチャと乱暴に動かした後、鍵を投げ捨てた。
「くそっ、兄者の野郎。鍵を変えやがった!」
苛々とカサドラさんが檻を蹴り付けた。大きな音に体がビクつく。
「おいお前!何で孕んでねーんだよ?!たっぷり中に精子を注いでそん中に卵入れただろーが!」
孕んでない?どういう事?
「薬だってしっかり飲ませた!なのに、何で卵の色が変わらねーんだよ!」
檻を蹴ったり殴ったりと当り散らすカサドラさんの言っている事が理解出来ない。でも、私はまだキドラさんの子供を身ごもった訳では無いの?
「カサドラ!」
キドラさんが慌てて駆けてきた。どうやら兵から知らせを受けて来てくれたみたいだ。
「カサドラ、もう止めなさい」
「兄者!何でだよ、何でこいつ孕んでねーんだよ?!」
カサドラさんがキドラさんに詰め寄る。キドラさんは視線を逸らして頭を左右に振った。
「それは…私にも分からないよ」
「なら、もう一回だ!もう一回、兄者の卵をこいつの中に産み付けさせる」
また…また好きでも無い人と無理矢理、あんな事をしなくちゃいけないの?私は顔色を無くした。