第6章 蜥蜴の王
「うっ…」
目が覚めた。頭が痛くて、体が熱っぽい。体を横にしようとすると、手は動いたのだけれど胸元が痛んだ。すると一瞬呼吸がしにくくなって咳き込んだ。
「痛っ」
咳き込むと胸にズキンと痛みが走り、体を丸めた。痛みに大きく息を吸うとまた咳き込んでしまった。痛くて咳き込み、咳き込んで痛んでの繰り返し。何とか痛みが引いて呼吸が落ち着くのを待つ。
恐る恐る息を吸うと、ゆっくり呼吸をすれば何とか大丈夫らしい事に気が付いた。
ここは檻の中で、そこのベッドに寝かされていたらしい。体は清められて清潔な一枚布の寝間着を着ていた。気を付けながら起き上がると、額から落ちたのだろう、濡れた布を見付けてそれを手に取った。
そうだ、私はキドラさんに…
お腹を手で撫でてみた。今は違和感とか感じない。私は、キドラさんの子供を産むのだろうか。
ジワリと涙が滲んで唇を噛んで堪えた。
キィと檻が開く音がして顔を上げた。そこにはキドラさんが居て、起きている私に気が付くと慌ててサイドボードに水の入った器を置いて走り寄ってきた。
「さん!」
ベッドの側で膝まづいたキドラさんが、目に涙を浮かべて頭を下げた。
「さん、申し訳ございません!」
「キドラさん…」
キドラさんの顔色は悪くて、鱗にも艶が無いように見える。涙を浮かべて震える姿は、心から謝罪して後悔しているように見えた。
「私は何という事を…本当に、本当に申し訳ございません」
キドラさんはあの時我を忘れてしまった。だから、キドラさんのせいじゃ無いと言う事は理解してる。我慢出来なかった私も悪いのだもの。でも、それでも…キドラさんを責めそうになって唇を噛み締めた。
「…たい」
私は堪えていた涙を零した。
「帰り、たい…帰りたい、です…」
私はキドラさんにしがみついた。そして痛むのも気にせず泣き喚いた。
「帰りたい…帰して!私をお家に帰して!」
優しいお爺さんとお婆さんが居て、この世界に来る前の何も考えずに無邪気に笑っていたあの頃に帰りたい。
「帰し、て…帰してぇ、う、うわぁぁん」
咳き込みながらも私は泣いて叫んだ。キドラさんは痛々しそうに顔を歪めて私を優しく抱き締めてくれた。私が拳で叩いても、文句を言っても何も言わずにただ抱き締めてくれた。