第6章 蜥蜴の王
「どうかお引き下さいませ、キドラ様からカサドラ様をお通ししない様にと…」
「うるせぇ!」
争う声の後に、何かがぶつかる音がして私は目を覚ました。ベッドから起き上がると、檻に手をかけてこっちを見ていたカサドラさんと目が合った。
「よう、目が覚めたか?」
カサドラさんに鞭で打たれた事を思い出して体が震えた。ベッドの上で後ずさり、壁へと背中を張り付かせ少しでも、と距離をとる。
そんな私に嫌味たらしく鼻を鳴らしたカサドラさんが、檻を開けて中へと入って来た。近付いて来る彼から逃げようとしたけれど、鎖を引っ張られて腕の中に捕まえられてしまった。
「っ、やめッ…」
「傷は…残ってねーな?熱もねぇ。あんな傷程度で発熱か…強化の力が落ちて来てんのか…」
鞭で打たれた記憶に体が震えてしまう。私の額に手を置いて熱を確かめ終えたカサドラさんは、私をベッドへと縫い付けた。
「やぁ、離して!」
「うるせぇ!」
大きな声で吠えられて体が竦んだ。
「やっぱり急がねーとな…早く兄者の子供を産ませねーと…」
上にのしかかり動きを封じたカサドラさんが、何かを取り出した。それは小さな試験管の様なものと、注射器だった。
中の液体を注射針で吸い出したカサドラさんが、私の両手を頭の上で一纏めにして拘束した。
「や、やだっ、やだやだっ、離して!」
チクリと私の首元に針が刺さった。そして中の液体を流し込まれる。
「んっ、やぁ、やだぁぁ…」
鞭を打たれて、今度は何をされようとしているのだろう。注射を終えたカサドラさんが私の上から退くと、満足そうに笑って見せた。
「何でそんなに嫌がる?もう王達の妃になれないお前を、兄者の妃にしてやろうって言ってんだぞ。喜べよ」
私は注射針を刺された首元に手を当てて、カサドラさんを睨んだ。
「兄者はすげぇ奴だ。頭が良いと言われる虫の奴等なんか目じゃねーよ。兄者がやる気になれば蜥蜴族は絶対に復活できる!」
何時もは眉間に皺を寄せて眼光だけで人を殺せそうなカサドラさんが、熱っぽく語っている。
「見てろよ、スカしてやがる悪魔野郎も、煩い犬も、いけ好かない虫に呆けてやがるスライムの奴にも…今に目にもの見せてやる!」
カサドラさんはキドラさんの事が好きなんだ。大嫌いなカサドラさんだけれど、ほんの少しだけ…可愛らしい所もあるんだなと思ってしまった。