第6章 蜥蜴の王
私はイラナイ子──
誰にも必要とされない、生きていても仕方が無い子。私が居なければお母さんは幸せになれたかもしれない。
でも、お爺さんとお婆さんは言ってくれた。私は王様達の子供を産むのだと。それは私にしか出来ない事なんだと。
私は嬉しかった。
私にも出来る事が有るんだ!私は必要な子なんだ!
ズキンと体に走った痛みに私は目を開けた。目を開けると、そこには私を心配そうに覗き込むキドラさんが居た。
「さん?あぁ、良かった」
「キ、ドラ…さん…」
起き上がろうとして、ふらついた。キドラさんが私の肩を支えてくれる。キドラさんが私の体を支えながらゆっくりとベッドに戻してくれた。
ベッド…気が付くと、何も無かった私の檻の中にベッドが有った。ベッドだけじゃ無くて、小さなテーブルと椅子、そのテーブルの上には花がいけられた花瓶と果物っぽいのが乗った篭まで合った。
「この、ベッド…」
「あぁ、勝手にすいません。何も無かったものですから…」
起き上がろうとした時に落ちたのだろう、キドラさんがベッドに落ちた布を拾うと水へと浸けて絞った。それを額へと乗せてくれる。冷たくて気持ちがいい。
「…すいません」
「いえ、僕こそ…貴女を守れず、申し訳ありませんでした」
カサドラさんに鞭で打たれた後、私は気を失って熱を出したらしい。それを看病してくれたのが、心配して駆け付けてくれたキドラさんだった。
「キドラさんのせいじゃ、無い、です」
余りにも申し訳なさそうに顔を歪めるキドラさんに、私は笑って見せた。キドラさんは私が帰れるようにカサドラさんに言ってくれたのだもの。
キドラさんは私のそんな姿を見て、奥歯を噛み締めると力無く項垂れた。
「…申し訳ありません。僕は、カサドラには逆らえないんです」
キドラさんが小さく口にした。私がキドラさんに視線を向けると、重なった視線にキドラさんが苦笑いを浮かべた。
「情けない…ですよね。でも、カサドラは僕より強くて皆からも慕われていて…僕なんかよりよっぽど王らしいんですよ」
何処か寂しそうに口にするキドラさん。私は何とか励ましたくて、キドラさんの指を握った。
「さん…」
私は笑ってみせると、指を握る手に力を込めた。カサドラさんよりキドラさんの方が優しい。少なくとも私はキドラさんの方が好きだよ。