第6章 蜥蜴の王
「離して!離して、くださ…」
カサドラさんに引きずられるままに、廊下を牢へと進んで行く。引っ張られると首輪の金属が気道部分を押すので息がしづらくて苦しい。必死で歩いてもカサドラさんの足の速さには追い付けず、バランスを崩して転んでは引っ張られてを繰り返した。
剥き出しの石や土の上を引きずられて、牢にたどり着いた時には足も手も擦り傷だらけだった。
「おい、お前。兄者がここに来ない様に足止めしておけ」
そう命令された牢番の蜥蜴が入り口へと走って行く。そして牢に二人きりになると、カサドラさんが檻の戸を開けて私を中へと引きずり込んだ。
「さて、王妃様。ご自分の立場と言うものをしっかりと理解して頂きましょうか?」
態とらしい敬語を口にしたカサドラさんがニヤリと笑った。その笑みに背筋が寒くなると、私は逃げようと暴れた。
「おら、暴れるなよ」
必死に手足を動かしても、カサドラさんは簡単にそれを押さえ込み私の両手を束ねると壁に備え付けられた枷へと纏めて繋いでしまった。
何とか足先が地面につく位の宙吊りの状態。体重が拘束された手首にかかり、痛かった。
けれど、それ以上にこれから何をされるのかが恐ろしい。
「何を…する気、なんですか?」
私の問いかけに、カサドラさんが笑みを深めた。そして一旦檻から出て行くと、何かを手に戻って来た。
「…何って、そりゃ王妃様の調教に決まってんだろーが?」
カサドラさんが手にしたものを揺らした。それは棒に紐が巻き付いたもので、揺らすと紐状のものが解けて床へと垂れた。
私はそれが何であるかを理解して、ひっ、と引きつった声を上げた。
「っ、そ、れは…」
カサドラさんが私に見せつける様に、革で出来た紐の部分を掌に滑らせる。
「あぁ、鞭だ。これでお前の立場ってもんを理解させてやる」
カサドラさんが手にした鞭を上から下へと勢い良く振り下ろした。
ヒュンと空気を切る音がして鞭が勢い良く床を叩いた。バシンと大きな音がしたそれは、私を怯えさせるには十分で私は自分の体が震え出した事に気が付いた。
「嫌、です…嫌ぁ!」
怯える私を態と煽る様に鞭を鳴らしながら近付いて来るカサドラさんの笑みが怖い。
「さぁ、たっぷりと調教してやるよ。王妃様?」
カサドラさんが鞭を持つ手を大きく振りかぶった。そして私へと向けて容赦無く振り下ろしたのだった。