第6章 蜥蜴の王
キドラさんが召使いの人を呼んで、私が割ってしまった珈琲カップの片付けを頼んでくれた。私は未だに呆然としたまま、それを眺めている。
子供も産めない、王様達を受け入れられる体も無くなってしまう。王様達の子供を産む為に育てられたはずなのに、それを叶える事の出来ない役立たずの私は王様達のそばにいる資格なんて無い。
召使いの人が部屋を出て行くと、キドラさんは私の様子を見て小さく息を付いた。
「さん、今日は夜も遅い…もうお休み下さい。明日になったら、貴女が解放されるよう僕がカサドラに話してみますから」
「…はい」
キドラさんは私を励ますように、軽く肩を叩いた。そしてそのまま私をベッドへと促してくれる。されるがままにベッドに横になった私に、布を掛けたキドラさんは目を細めて笑った。
「あの、キドラさんは何処で寝るのですか?」
てっきり一緒に寝るものだと思っていたのだけれど、キドラさんはベッドへ入ってくる様子が無い。すると、キドラさんは子供にするように私の頭を優しく撫でてくれる。
「僕はそこのソファーで寝ますよ」
「なら、私がそっちに…」
起き上がりかけて、キドラさんにベッドへと押し戻された。そして頭を左右に振ったキドラさんは、私から離れてソファーの上に乗ってあった書類やら本やらをそばのテーブルへと移動させ始めた。
「女性をソファーで寝させる事なんて出来ませんよ。僕は構いませんからベッドを使って下さい…それに僕は何処でも寝られるんです」
貴女も見たでしょう、と少しおどけた調子で言われて私がカサドラさんにこの部屋に連れてこられた時、キドラさんが本に埋もれる様にして机に突っ伏して寝ていたのを思い出した。良くあんな体勢で寝れたものだと思い出して、少しだけ口元が緩んだ。
そんな私を見たキドラさんは安心した様に表情を緩めてソファーに腰掛けた。
「お休みなさいさん」
「はい…お休み、なさい…」
私はキドラさんに言われるままに目を閉じた。色んな事が有り過ぎて、体は凄く疲れているのに目は冴えてしまって眠りへと落ちることが出来ない。
嫌な想像が頭の中をグルグル回って、気を緩めると涙が零れてしまいそうだ。
それでも朝起きたらこれは全て夢なのだと、それを期待して私は目を閉じ続けた。
眠りについたのは明け方だった。
…とても嫌な夢を見た。