第6章 蜥蜴の王
「そんな…あの、緑の薬を飲んだらまた…何とかなるんじゃ…」
私の言葉にキドラさんは静かに頭を左右に振った。
「もう、あの薬から体内へと取り込めるだけのものは全て摂取したはずです。根本的に…足りない物が有るんですよ」
足りない物と言われて身を乗り出した。もしかしてキドラさんは私に足りない物が何なのか、知っているのだろうか。
「その足りない物があれば…私は子供を産むことが出来るんですか?」
「ええ、それに貴女は強化された体を保つ事も出来る」
その言葉に私の胸が期待に膨らむ。
「それは私にも手に入れる事が出来ますか?!もしかして、さっきカサドラさんが私が妊娠する為に飲ませた薬って…」
祈る様に、期待を込めてキドラさんを見詰める。そんな私の視線から逃げる様にキドラさんは視線を斜め下へと下げると、肩を落とした。
「カサドラが貴女に飲ませたのは多分受精能力のみを上げる為の薬物でしょう。体質を変える為の物質はとても稀少で、手に入れる事は出来ないと思います…お力になれず申し訳ございません」
「っ!」
キドラさんの言葉を聞いて、どうしようもない感情に叫び出しそうになって息を詰めた。そして何とか感情を抑え込むと大きく息を吐き出した。
「そう、ですか…」
「申し訳ございません…」
再び謝るキドラさんに、私は慌てて胸の前で手を振った。キドラさんが悪いわけじゃ無いもの。
「キドラさんが謝る事、無いです。…しょうがない、事ですから…」
そう、だってしょうがない事だもの。でも私が子供を産めないとなると、皆はどう思うのだろう?やっぱり子供を産めない私なんて、必要無いのかな…
「これからは貴女の命を出来るだけ長らえさせる為に、怪我などをしない様に気を付けた方が良いです」
そうか、私の傷が治りにくいのもこのせいだったんだ。ルナール様の国で何時もより手の傷が治りにくかったのを思い出して、無意識にそこを撫でた。
「出来れば、人間界に戻って心安らかに暮らすのが一番なのですが…」
「そう、ですね…」
皆から離れて人間界に戻る。確かに強化能力の無い普通の人間に戻ってしまうのであれば、それが一番良いのだろう。でも…皆と離れたく無いよ…
「…少し、考えてみます」
「ええ、僕で出来る事なら力になりますから」
有難うございます、と私は呆然としたままに礼を口にしたのだった。