第6章 蜥蜴の王
私から僅かに距離を開けて椅子に腰掛けるキドラさん。珈琲に息を吹きかける度に、眼鏡が白く曇っているのを見てつい笑ってしまった。
「ふふっ…」
「おや、笑うと可愛らしい」
キドラさんに言われて慌てて表情を改めた。その反応に眉を下げたキドラさんは曇った眼鏡を外して布で拭き始めた。
「あの…」
「はい?」
私にはずっと気になっていることが有った。
──本当にあいつ等の子供を産めると思ってんのか?
──自分が欠陥品だって分かってねぇのか?
カサドラさんに言われた事が頭から離れない。何故あんな事を言ったのか、私は気になって仕方が無かった。もしかしたら、キドラさんなら教えてくれるかもしれない。そう思って口を開いた。
「私が欠陥品って…何ですか?子供が産めないって、どういう事なんでしょうか」
「…カサドラが言ったのですか?」
私が頷いて見せると、キドラさんは大きな吐息をついた。そして改めて私と向かい合うと僅かに視線を下げて言い難そうにしてから口を開いた。
「貴女は、幼い頃から最近まで薬を飲んでいましたね?緑色の…」
「はい」
「あれは体の強化と再生力を高める目的の物ですが…まだ試作段階のものです。完成品はまだ無いのですよ」
それは何と無く感じていた。薬を飲んで異状をきたすとお爺さんやお婆さんが、何かの分量の話しとかをしていたから。
「現に貴女と同じ薬を飲んで育てられた人間達は貴女以外、全て死んでいます」
その言葉に喉を鳴らした。私以外にも花嫁候補が居たんだ。その事に胸が痛んだ。
「何故、私だけ…」
「遺伝子的な何かが関係しているのかもしれません。貴女だけ生き残り、目的通りの強化された体も手に入れた。しかし…」
キドラさんの視線が私の下腹部へと移る。私はその視線が示す子宮辺りを手で触れた。
「王達の精子まで異物と捉えた体は、精子を受けつけないようになった」
一瞬、息をするのを忘れた。精子を受付けない体?
ドクドクと激しく心臓が脈打ち、大きな音を立てている。
「嘘……」
私には子供が出来ないの?
呆然と口にした私の姿にキドラさんが申し訳なさそうに肩を下げた。
「残念ながら真実です。今のままでは貴女は子供を産めないどころか、近い内に体の強化能力まで無くしてしまうでしょう」
私の手からカップが落ちて、床で音を立てて割れた。