第6章 蜥蜴の王
カサドラさんのお兄さんのキドラさんは、この国の王様らしい。国と言っても蜥蜴族の集まりの中でと言う事で、公に認められている国では無い。
他国との戦争に負けた蜥蜴族は、身を隠すために地中深くへと逃げ込んだ。
キドラさんは、カサドラさんとは違って雰囲気が柔らかい。カサドラさんより小柄で、カサドラさんと同じ様に立派な角がある。その角には青い宝石が揺れていた。
ずれた眼鏡を時おり押し上げながら話す姿は体育会系のカサドラさんとは対照的に、知的で文化系と言った印象を受ける。
「僕達を見て泣き喚かない人間とは初めて会いましたよ」
そう言って微笑んだキドラさんは、そうだ、と思い付いたように机へと歩いて行く。そして本を脇へと寄せて掘り起こした何かの装置のスイッチを押した。
「申し訳ございません。カサドラも悪い蜥蜴では無いのですが…どうも強引な所が有ると言いますか…」
悪い蜥蜴じゃ無いんですよ、と苦笑いを浮かべるキドラさんに流石に同意が出来なくて肩を竦めた。
「少し…この国の事を思う余りに無茶をし過ぎるのです。貴女は…四王の花嫁ですね?」
私はキドラさんの問いかけに頷いた。するとキドラさんは大きなため息をついて頭を抱えた。
「本当に申し訳ない…僕が責任を持って貴女を四王の元へとお返し致しましょう」
「本当ですか?!」
「ええ、ですので安心して下さい」
キドラさんの言葉に私はここに来て初めて肩の力を抜いた。気が張り詰めていたのだろう、緩んだ瞬間にポロリと涙が零れた。私は慌てて目元を擦った。
「あぁ、泣かないで下さい」
困った様にオロオロと戸惑ったキドラさんは、先程の装置からカップへと液体を注いだ。そして何やら粉をまぜてそれを私へと差し出した。
「熱いですから気を付けて」
差し出されたカップから、フワリと珈琲の良い匂いがした。
「…有難うございます」
私は息を吹きかけて表面を冷ますと、上澄みをズズッと啜った。ミルクが入った甘めの珈琲、久しぶりのその味に表情が緩んだ。
「…美味しい」
「良かった、気に入って頂けましたか。人間の世界で珈琲と言うらしいでね。僕も気に入って飲んでいるんです」
キドラさんは私をベッドへと座る様に促すと、きっと私が怖がらない様に気を使ってくれたのだろう、距離を取るように机に備え付けていた椅子を引っ張って来て座った。