第6章 蜥蜴の王
机に突っ伏して寝ていたらしい。起き上がった人物の頭に乗っていた本がバサバサと音を立てて床へと落ちた。
「兄者、またそんな格好で寝ていたのか」
カサドラさんが呆れた様な吐息をついた。起き上がった蜥蜴族の角には、青い宝石が光っていた。そして彼はずれた眼鏡を押し上げながら周囲を見回してカサドラさんを見付けると困った様に笑いながら頭を掻いた。
「つい本を読むのに夢中になっていたら、また何時の間にか寝てしまったよ」
肩を竦めて言い訳をしているこの人が…カサドラさんのお兄さん?
「兄者、いい加減にしないと体を壊すと言っているだろう」
そう口にしたカサドラさんは、私の前で見せる強引で強気な姿ではなく目の前の人物を素直に心配している様に見えた。お兄さんが、私の方を見て僅かに目を見開いた。
「言ってただろう?例の人間だ」
鎖を引いて私を引き寄せると、カサドラさんは得意気に口の端を上げた。でも目の前のお兄さんは複雑そうに苦笑いを浮かべただけだった。
「カサドラ、僕はやっぱりこう言うのは…それに王は君の方が…」
「何を言ってるんだ!王は兄者しか居ないと何度も言ってるだろう?!」
二人の言い合いを聞いているとカサドラさんとは対照的にお兄さんは何処と無く気が弱そうな、そんな印象を受けた。性格の似ていない兄弟だ。
カサドラさんは私の鎖を引っ張り歩いて部屋の奥へと進むと、ベッドの脇の金具に鎖を引っ掛けた。
「いいな兄者?ちゃんと交尾してこいつに子供を産ませろよ?」
「カサドラ…」
分かったな、と念を押すとそれ以上話しは聞かないとカサドラさんは扉を開けて部屋から出て行った。
「はぁ…」
カサドラさんのお兄さんが大きな吐息をついた後、私の方へと目を向けた。
「君は…服を着ないのが趣味なのですか?」
「っ?!そ、そんな訳無いじゃ無いですか!」
言われた言葉に頬を染めて言い返すと、お兄さんは肩を竦めて、そうですよねぇ、と笑った。そしてベッドのシーツを引き剥がすと私の肩へとかけてくれた。
「………?」
その行動を不思議そうに見詰めると、お兄さんは目を細めて優しい笑顔を浮かべた。
「僕はキドラと言います。貴女のお名前を聞いても良いですか?」
「私は…、です…」
戸惑いながら答えると、キドラさんは私の手を取り揺らしながら、宜しく、と口にした。