第5章 魔物の王
「この国が、もっと素敵になるのを楽しみにしています…だから今度私が来た時、見せて下さい。ルナール様の素敵な国」
ルナール様は私の言っている事を理解してくれたみたい。大変な事だし、そんなに直ぐに結果も出ない…長くて難しい戦いになるだろう。でも私の言葉で少しでもルナール様が頑張れるなら、と思った。
「私は、色んな国の甘い物をご褒美に持って帰って来ますから…一緒に食べましょう、ね?」
「……っ」
優しく頭を撫でると、唇を噛み締めて拳を握ったルナール様が名残惜しさを振り切るようにして小さく頷いた。
「分か、た…がん、ばる…でも、で、も…僕の、事…忘れ、な、で…忘れ、無い、で…」
ルナール様が泣きながらポケットから何かを取り出した。それは透明な石で出来た指輪だった。それを私の小指へと嵌めてくれる。
「綺麗…」
「、す、き…好きッ…」
私はルナール様がくれた指輪を抱き締めた。そしてポロポロと涙を流すルナール様に、もう一度触れるだけのキスをした。
「様、お時間でございます」
悪魔の国のお迎えの人が私を転移装置へと促す。小さく震えながら私を抱き締めていたルナール様の手が…名残惜しげに離れて行った。
ルナール様の温もりが無くなって、やけに寒く感じた。
「…」
「ルナール様…私、ルナール様の事、忘れませんよ。絶対!」
「絶対?」
「はい!絶対の、ぜーったい!」
私は絶対、と力を込めて口にした。するとルナール様が泣きながらも小さく笑ってくれた。
お迎えの人が私の背中を押して、転移装置へと移動する。
「!」
追いかけようと駆けてきたルナール様が足を止めた。悔しそうに、悲しそうにその場で立ち尽くす。
「、ぼ、く、頑張、る…頑張る、から…早く、また僕の、国、来て…」
「はい!」
転移装置へと足を踏み入れる。ナグル様を初め、皆さんが一斉に頭を下げた。
「、ッ…す、き…好きッ」
泣きながら最後まで訴えて来るルナール様に、私も涙が滲んでしまった。
「私も!私も、大好きです!」
ルナール様、と叫んだ声は転移装置へと消えた。
今度ルナール様に会う時は、私も少しは成長した姿を見せられる様にしよう。
こうして私はルナール様の国を後にしたのだった。