第5章 魔物の王
「…や、だ…やだッ…」
ルナール様がポロポロと涙を流して、私を背後から抱き締めている。
「お気持ちは分かりますが…」
「や、だッ!」
唇を引き結び、頬を膨らませるルナール様が、ナグル様の言葉に子供のように駄々をこね頭を振る。
「ははっ、ルナール様にも困ったものです。ですが…この調子ですと、ルナール様のお子様を見る日もそう遠くでは無いかもしれませんな」
ナグル様の言葉に頬が熱くなった。そしてルナール様は嬉しそうに私に頬擦りをする。そんな私達の姿にナグル様がまた声を上げて笑った。
「姫様、本当に有難うございました。ルナール様が…国をどうして行きたいのか…そしてその為に私に力を貸して欲しい、と…話して下さったのです」
笑って口にしたナグル様の目は涙が滲んでいた。
「あの日…姫様が拐われた日のルナール様の采配は見事な物でした。あんな一面も有るのですなぁ…私は、これからもっとルナール様と話してみようと思いまする。身近で過ごして来た故に、相手の事を理解しているのだと…思い上がら無い様に精進致しまする」
そう口にしたナグル様に私は笑って頷いた。きっとこの国は今よりも素敵な国になる。
そして私も、出来る限りルナール様を支えて行こう。心の中でそう誓ったのだった。
転移装置が輝き出す。
悪魔の国のお迎えの人達が転移装置の入り口へと立った。
「、行かな、で…行かない、で」
ギュッと私を抱き締めたままに、泣いて訴えるルナール様を私は抱き締めた。そして背中を優しく撫でる。私からの別れの言葉を察したのか、更に私を強く抱き締めてルナール様は首元に顔を埋めてしまった。
「ルナール様…好き、ですよ?離れていても、ちゃんとルナール様の事、好きですから」
「っ、や、だ…やだっ、そばに、居て、よ…と、離れる、や、だッ」
グスッと鼻を鳴らしたルナール様の顔は涙でグシャグシャになっているに違いない。私はそんなルナール様の髪に口付けた。そして頬に、顔を上げさせて鼻先に、目元に、最後に唇へと口付けた。
「っ、ん…」
ヒックヒックとしゃくりあげるルナール様の気持ちが少し落ち着いた様に見えた。
「ルナール様…私、ルナール様の国を楽しみにしているんです」
私の言葉に不思議そうに首を傾げたルナール様ににっこりと笑って見せた。