第5章 魔物の王
私は涙で濡れた目を擦りながら歩いた。泣いた顔をしていたらアダマンド様がきっと心配するもの。
ルナール様の泣いている顔を思い出して寂しくなったけれど、アダマンド様に久しぶりにお会い出来るのはとても嬉しい。
私は気持ちを切り替えなくちゃ、と大きく息をついた。
「…おい、何かおかしく無いか?」
「あぁ、こんなに酷いのは初めてだ」
お迎えに来てくれた悪魔族の二人の不安そうな声が聞こえた。私はその言葉に周囲を見回す。
他の国へと繋がっている淡い光に包まれた道。今はそれが、頻りに揺れて、テレビの砂嵐の様に時折歪んでいた。
虫の国から魔物の国へと来る時も少し変だったけれど、こんなに頻繁では無かった。
いつもと違う……
私は妙な胸騒ぎがして胸元を抑えた。不安にドクドクと心臓が脈打つ。
「様、少々急ぎましょう」
私は不安に思いながら、悪魔族のお迎えの人に促されるまま先へと進む足を早めた。
向こうに出口が見える。良かった…。
私と二人は出口が見えた事に安心して、転移装置から飛び出した。
外に出たその瞬間、私の顔にビシャリと暖かいものが飛んで来た。
「………え?」
私の左右に居た悪魔族の人達が地面へと崩れ落ちる。驚いて見下ろすと、血だらけで、一人は肩から腹部にかけてバッサリと裂けており、もう一人は…頭と胴体が離れていた。既に二人の息はなくて、絶命していた。
「…う、そ…何、これ…」
濡れた顔が気になって触れたら、その手が赤く染まった。それが血なのだと分かって手が震える。
一体何が起こっているのか、理解出来ずに居るとカツンカツンと足音が響いた。
私はそちらへと顔を向け…
「あ、なた、は……」
目を向けた先には、表面が細かな鱗で覆われた、大きな体の二本足で歩く爬虫類。角の先で赤い宝石を揺らしている蜥蜴族。
「よぉ、。蜥蜴の国へようこそ」
そこには不適な笑みを浮かべたカサドラさんが立っていた。