第5章 魔物の王
「カップ、ケーキ…」
「はいはい、ちゃんとルナール様の分も有りますからね」
「…たく、さん?」
「はい、たーくさん!」
そう答えると、ルナール様は嬉しそうに笑顔を浮かべると私からバスケットを取り上げた。どうやら荷物を持ってくれるみたい。ルナール様、優しいんだよね。
カップ、ケーキ…と嬉しそうに歌っている姿にクスッと小さく笑ってしまった。
建物から出るとルナール様の案内で先日の噴水へと向かう事にした。同じ場所に二人で腰掛ける。今日は暑いから、噴水の水飛沫が涼しくて心地よかった。
「今日は時間が無かったので、余り大したものは作れなかったんですけど…」
バスケットを開けて中を覗き込んだルナール様に肩を竦める。今日はサンドイッチだけだから、ラウルフ様もキリヤ様も居ない。
「が、作った、の?」
「はい」
「…なら…食べる」
そんな嬉しい事を言ってくれる。サンドイッチを食べながら、私達は色んな話しをした。ルナール様はサンドイッチを全部平らげてくれて、今はカップケーキを美味しそうに頬張っている。
「ナグルが…ナグル、が、腕は、そのままに、して、おくって…」
私はルナール様の言葉が理解出来ずに首を傾げた。
「スライム、は、腕、無くなっても…他の箇所の、使って腕、作る事、出来る…でも、劣化、して…記憶、とか、能力、とか、無くしたり、する…」
ルナール様の言っていることが理解出来て、頷いて見せた。
「劣化、して…僕の、記憶、無くしたく、無い、て…」
ナグル様は腕より何よりルナール様との記憶を失う事を恐れたのだ。
「ナグル様は、ルナール様の事が大切なんですね」
「……ぅん、そう、言ってた」
頬を染めて恥ずかしそうに頷くルナール様が可愛らしい。良かった。ルナール様はちゃんとナグル様とお話し出来ているみたい。
「後、僕、が…国の、改革を、したいって…言ったら…何処までも、着いて来て、くれる、て…支える、て…言った。笑わないで…無理、て…言わない、で…一緒に、頑張りましょう、て…」
ルナール様はとても嬉しそう。そしてその表情はナグル様と言う誰よりも信頼出来る味方を得て、何処か自信がついたようにも見える。何時もは可愛らしいルナール様が、澄んだ瞳を遠くへ向けて語る姿は何処か格好よく見えた。
……口の端にケーキの欠片がついていたけど。