第5章 魔物の王
「…が、生きてて、良かった…」
ルナール様が長い睫毛を伏せると、また目からポロポロと涙が零れた。ルナール様…凄く、心配してくれたんだ。
「私は死にませんよ、丈夫ですから」
私は涙を零すルナール様の頭を優しく撫でた。それでも泣き止まないルナール様の涙が綺麗で、ルナール様が小さな子供のように愛しくて。私は泣き止んで欲しくてルナール様の目元をペロリと舐めた。
零れる涙を舌で拭って、目元に唇を押し当てる。
すると、擽ったそうに肩を竦めたルナール様が私をじっと見詰めて来た。
「ルナール様?…っんん!」
気付いたら、ルナール様の唇が私の唇に重なっていた。突然の事に驚いた私は目を瞬かせて、間近なルナール様を見詰め返した。視線が重なったルナール様は、頬を染めて僅かに視線を泳がせた。
それでも唇は離さずに、顔の角度を変えるともっと深くと私を求めて来る。でもどうすれば良いか分からないみたいで、もどかし気に眉を顰めた。
私はそんなルナール様を微笑ましく思いながら、僅かに唇を開いて舌を覗かせた。
ルナール様も私と同じ様に舌を出して、私の舌に自分の舌を触れさせる。するとルナール様はもっと、と舌を絡め擦り付け深く口付けて来た。
「んんっ、ふっ…」
「んっ、はぁ……気持ち、いい…」
もっともっと、とねだられて私もルナール様の口付けに応えた。最初は控え目だったルナール様の舌の動きが段々と激しくなる。ただ舌を擦り合わせる動きでも痺れたような感覚が体に広がった。
でも、その舌が頬へと触れた時、カサドラさんに殴られた時に切れた傷に当たって体が強ばってしまった。
「っ、、ごめ…」
ルナール様が慌てて舌を引き抜いた。そして殴られて今や青くなってしまった私の頬へと触れる。優しく、心配そうに眉を下げてそっと気遣うルナール様に笑って見せた。
「大丈夫です。こんなの直ぐに治りますから」
「でも…」
「ルナール様が助けて下さったので、もう大丈夫ですよ」
そう口にすると、ルナール様の頬が照れた様に赤く染まった。でも、ふと、今更ながらに気が付いたのだけれど…
「きゃああ!」
私は真っ赤になって顔を手で覆った。不思議そうにルナール様が首を傾げている。
今気づいたのだけれど、ルナール様は服を着ていなくて真っ裸だったのだった。