第5章 魔物の王
「王妃様!ご無事ですか、王妃様!」
その声であの黒い海が私を助けに来たものだと分かった。背後では争う声が聞こえる。
私は手を差し出すカサドラさんを探る様に見詰めた。
子供が産めないってどう言うこと?私が欠陥品って何?
ドクドクと激しく不安に脈打つ心臓の音が聞こえる。私は王様達の子供を産むためにここに来たのに、子供が産めないってどう言うこと?
カサドラさんはその理由を知っているの?もし知っているのなら教えて欲しい。
私は無意識に手を伸ばしかけた。カサドラさんの手へ触れそうになったその瞬間…
「!」
ドロリと扉の中に液体が流れ込んだ。その液体が何本かシュルシュルと上へ伸びて互いに絡まり、伸びて縮んで形をとって行く。
そしてみるみる黒い水がルナール様の形へと変わった。
「みつけ、た…」
何時もは透明なルナール様が、今は黒く染まり内側にボコボコと大きな気泡を立ち上らせていた。それがルナール様の怒りの激しさを表している。そんなルナール様が珍しく鋭い瞳をカサドラさんへと向け睨み付けていた。
「を、かえ、して」
カサドラさんとルナール様が睨み合う。最初に視線を外したのはカサドラさんだった。
「…ふん、まぁ良い…今回は引いてやる」
カサドラさんが私へと伸ばしていた手を引っ込めた。
「俺の言った事をよく考えてみる事だ。また近い内にな…」
そう口にするとカサドラさんは裏口から外へと走り出した。
「待って…っ」
追いかけようとしたのだけれど、足に力が入らなくてその場に力無く座り込んだ。足がガクガクと震えて立てない。
ルナール様が、私のそばへと駆け寄る。
「王!」
「そこから、逃げた…追いかけ、て」
そう兵士へと指示をしたルナール様は、兵士を見送った後私を抱き締めた。
「…」
私を抱き締めたルナール様の色が、黒から透明へと変わって行く。大きな気泡も段々と小さくなり、私を抱き締めたルナール様の気持ちが段々と落ち着いて来ているのを感じた。
「良かっ、た…良かった……」
私を抱き込んだルナール様の体が震えている。グスッと鼻が鳴って、もしかして、とルナール様の頬に手を添えて顔を上げさせた。
すると、ルナール様の目からはポロポロと透明の綺麗な涙が零れていた。