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人外王の花嫁

第5章 魔物の王


「黒い海?何を寝ぼけた事を言ってんだ?」

ここは山の中だぞ、と返したカサドラさんが口を離し、私を解放した。私は逃げる様にカサドラさんから距離を取ろうと後ずさる。するとそんな私に気が付いたカサドラさんが鎖を掴んだ。
そして私を引きずりながら外を確認する為に扉へと歩き出す。

外に出るともう夜になっていて真っ暗だった。でも、森の木々がやけに煩くザワついている。風が強いわけでも無いのに…

「…来やがったか」

カサドラさんが忌々しそうに呟いた。闇の中、私の目が何かをとらえた。目が闇に慣れて来たのかもしれない。目を凝らしてもっと良く見ようとした所で、雲が切れて月明かりが周囲を照らした。

「海だ…黒い海だ!」

蜥蜴族の一人が叫んだ。

確かにそこに海が有った。遠く向こうに月明かりを受けてキラキラと輝く黒い海。荒ぶり波打ち、不自然に蠢く黒い海が有った。

「ちっ、思ったより早かったな」

カサドラさんが踵を返すと、私の鎖を掴んだままに小屋の中へと歩き出した。そして小屋の中に戻ったカサドラさんが荷支度を始める。

「予定より随分と早いが…まぁ良い、目的は果たした」

荷の用意を終えた時、後ろで叫び声が聞こえた。

「うわぁー!」

その悲鳴に弾かれたように扉の方を見た。ドプンと水の音が聞こえたかと思うと、開いた扉から蜥蜴族の一人が海に飲み込まれたのが見えた。

「ひ、ひぃ!た、助けてくっ…」

その海の水は粘り気が有り、飲み込んだ蜥蜴族を逃がさ無いようにと纏わり付く。そしてもがいている内に、蜥蜴族の人が溶け始めた。息をしようと必死に黒い水から顔を出す蜥蜴族の手が、顔が…ドロドロと崩れ始めたのだ。

「ギャアァァ!」

肉が溶け、骨が見える蜥蜴族の姿に私は口を手で覆った。一体何が起こっているの?

「おい!」

カサドラさんが鎖を引っ張り、私の意識を自分へと向けさせた。

「今回はここまでだ。…なぁ、お前本当にあいつ等の子供を産めると思ってんのか?」

「え?」

カサドラさんの瞳が私をじっと見詰めてくる。

「お前は自分が欠陥品だって分かってねぇのか?」

「…どう言う、事、ですか?」

カサドラさんの言葉に不安に心臓が高鳴る。背後では蜥蜴族の人達の悲鳴が響いている。

「知りたければ俺と一緒に来れば良い」

小屋の裏口を開けたカサドラさんが私に手を差し出した。
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