第5章 魔物の王
ジャラリと音が鳴った。私は僅かな頭の痛みと共に目を覚ますと周囲を見回した。室内はランプで照らされ、どうやら何処かの小屋の中なのは分かった。
「よぉ、目が覚めたか?」
声がした方へ目を向けると、椅子の背凭れを抱くようにして座っていた蜥蜴族の男と目が合った。角に赤い飾りをつけたリーダー格の人だ。
私は男から距離を取ろうとしたのだけれど、手が頭の上で纏められ天井に繋がれていて動く事が出来なかった。さっきの音は鎖の音だったんだ。
「俺様はカサドラだ。お前の名前は?」
「…、です」
「へぇ、ってのか。煩く泣き出さない辺りは流石だな」
カサドラと名乗った蜥蜴族の男の人は、椅子から立ち上がると私のそばへと歩いて来た。そして私を吊るす鎖を掴むと、それを引っぱり自分へ引き寄せた。
「なぁ、お前俺達の所に来いよ」
私はカサドラさんの言う事に眉を顰めると、頭を左右に振った。
「あいつ等と一緒に居ても、子供を産む道具にされるだけだろうが。こっちに来れば相手する人数は確実に減って楽になるぜ?」
「皆さんはそんな方じゃ有りません!道具とか、そんな事思って無いはずです!」
私の言葉にカサドラさんが愉快そうに声を立てて笑った。
「お前分かってねぇなぁ。お前より前に来た人間がどうなったか知らないのか?」
人間界から送られて来た女だったか、と聞こえて私はキリヤ様から聞いたそれぞれの王様に送られた人間の女の人の事を思い出した。
「悪魔に送られた女は、煩いとかで口を縫われた上で悪魔の凶悪なモンで突き殺された。犬に送られた女は一日もしない内に食われたな。虫についた女は、他の虫の苗床になった…虫に内側を食われる様は見事だったぞ?眼球を押し出して虫が中から出て来るんだ」
ククッと愉快そうに笑ったカサドラさんの言葉に眉を顰める。
「あの純情そうなスライムのガキも同じだ。鬱陶しいからと女を跡形も無く溶かしやがった」
カサドラさんは私の耳へと唇を寄せて来た。そして誘うように囁きかける。
「皆、お前に子を産んでもらう為に媚びてるだけなんだよ」
なぁ、と私の不安を煽る様に囁いて来る。
「違います!皆さん…皆さんはそんなのじゃ無いです!」
皆さんの優しさが全て嘘とは思えない。私は皆を信じる。
私の瞳を見つめて、カサドラさんは面白くなさそうに鼻を鳴らした。